明治三十一年に横浜・山手の居留地に生まれ、八十三歳でニューヨークに死んだポール・C・ブルーム翁の、私は晩年の友の一人だった。彼のことを書き出せば長くなる。東京・青山に隠棲していた蒐書家で、その外国人による幕末・維新期の日本関係書五千冊は、横浜開港資料館に譲られ、同館の基本図書になったとだけ記しておく。 話は、ブルーム翁の少年時代のことである。両親はパーティに出かけて遅く帰宅した。翌朝に日本人阿媽に片付けさせるつもりで、翁の母はドレスは脱いだまま、身に付けた宝石類もすべて食堂のダイニングテーブル上に並べたままにして寝た。そしてその夜、泥棒が入った。

「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。
フォーサイト会員の方はここからログイン