第三の開国 中曽根康弘『政治と人生』

 多くの日本人にとって、中曽根康弘の先進国サミットへのデビュー姿は、少し気恥ずかしく少し誇らしげな、新たな感覚だった。 舞台は、一九八三年のウィリアムズバーグ・サミットである。 首脳たちの記念撮影の場で、中曽根はホストのレーガン米大統領とサッチャー英首相の間にはさまれ、愛嬌を振りまいた。特等席である。国民の受けた印象は、「やるじゃない、やりすぎじゃない、ナカソネさん」といったところだったろうか。 G7サミットは一九七五年に始まった。日本は発起メンバーとなった。戦後の廃墟から一人前の経済大国として認められるようになったのである。ただ、国際社会で日本の顔が見えない状態はその後も続いた。その顔を国民は初めて中曽根に見た思いがしたのである。そのパフォーマンスも含めて、それはどこかバタ臭かったが、舌触りは悪くない。

カテゴリ: カルチャー
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
船橋洋一(ふなばしよういち) アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長。1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒。1968年、朝日新聞社入社。朝日新聞社北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年から2010年12月まで朝日新聞社主筆。米ハーバード大学ニーメンフェロー(1975-76年)、米国際経済研究所客員研究員(1987年)、慶應義塾大学法学博士号取得(1992年)、米コロンビア大学ドナルド・キーン・フェロー(2003年)、米ブルッキングズ研究所特別招聘スカラー(2005-06年)。2013年まで国際危機グループ(ICG)執行理事を務め、現在は、英国際問題戦略研究所(IISS)Advisory Council、三極委員会(Trilateral Commission)のメンバーである。2011年9月に日本再建イニシアティブを設立し、2016年、世界の最も優れたアジア報道に対して与えられる米スタンフォード大アジア太平洋研究所(APARC)のショレンスタイン・ジャーナリズム賞を日本人として初めて受賞。近著に『フクシマ戦記 10年後の「カウントダウン・メルトダウン」』(文藝春秋)、『自由主義の危機: 国際秩序と日本』(共著/東洋経済新報社)、『地経学とは何か』(文春新書)、『カウントダウン・メルトダウン』(第44回大宅賞受賞作/文春文庫)など著書多数。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top