葬儀が終わり、棺が数人の男に担がれて教会を出、霊柩車までの短い距離、太陽の下を行く。最後の日光を浴びる。死者が誰であれ、胸の痛くなる瞬間である。向こうの新聞は、よくその場面の写真を載せる。キャサリン・グラハムの葬儀もそうだった。 八十四だと聞いて驚いた。彼女が「ワシントン・ポスト」を率いてニクソン大統領と戦い辞職に追い込んだウォーターゲート事件の頃は綺麗に写っていたが、もう三十年近い昔である。海の向こうでも、行く川の水は速い。 自殺した夫の後を継いで「ワシントン・ポスト」の社主になったとき、彼女は四十六歳で四児の母だった。母親として一生を終えるはずだった人が、言論の自由のために時の政府と徹底的に渡り合った。

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