饗宴外交の舞台裏 (171)

ロンドン五輪「2人の女子柔道選手」と国際政治

執筆者:西川恵 2012年8月7日
特製のへジャブで試合に臨んだシャハルハニ選手(c)時事
特製のへジャブで試合に臨んだシャハルハニ選手(c)時事

 スポーツは国際情勢を反映し、国際政治はスポーツを通してそれぞれの国の有りようを鮮やかにあぶりだす。ロンドン五輪でも興味深い光景が幾つかあったが、女子柔道にまつわる2つのエピソードを紹介したい。  大会7日目の8月3日、エクセルで行なわれた女子柔道78キロ超級の試合。サウジアラビア代表、ウォジダン・シャハルハニ選手(16)がサウジ柔道連盟の男性2人に付き添われて登場すると、大きな拍手が湧いた。  頭には髪を覆う特製のヘジャブ。ヘジャブというと通常はイスラム教徒の女性が髪を隠すためにかぶる大きなスカーフだが、今回は競技でずれないように頭にピッタリとフィットする水泳帽のような形にした。  相手は米自治領プエルトリコのメリッサ・モヒカ選手。両者一礼すると組み合った。「頑張れ」とシャハルハニ選手に声援が飛んだが、1分22秒、モヒカ選手に投げられ一本をとられた。退場するシャハルハニ選手に温かい拍手が送られ、ジャーナリストたちはコメントをとろうと後を追った。

カテゴリ: スポーツ
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執筆者プロフィール
西川恵(にしかわめぐみ) 毎日新聞客員編集委員。日本交通文化協会常任理事。1947年長崎県生れ。テヘラン、パリ、ローマの各支局長、外信部長、専門編集委員を経て、2014年から客員編集委員。2009年、フランス国家功労勲章シュヴァリエ受章。著書に『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』(新潮新書)、『エリゼ宮の食卓』(新潮社、サントリー学芸賞)、『ワインと外交』(新潮新書)、『饗宴外交 ワインと料理で世界はまわる』(世界文化社)、『知られざる皇室外交』(角川書店)、『国際政治のゼロ年代』(毎日新聞社)、訳書に『超大国アメリカの文化力』(岩波書店、共訳)などがある。
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