大震災5年後の被災地 「飯舘村」住民の苦闘(上)「丸川発言」の波紋

執筆者:寺島英弥 2016年2月24日
タグ: 日本
エリア: アジア
2月12日、環境省で取材に応じる丸川珠代環境相 (C)時事

 2月8日の信濃毎日新聞は、丸川珠代環境相が前日、松本市内で講演したという記事を載せた。ニュースになったのは講演での発言だ。東京電力福島第1原発事故の後、政府が全住民避難を指示した被災地で行っている除染で、年間被ばく量の目標を1ミリシーベルトとしている点について、「『反放射能派』と言うと変ですが、どれだけ下げても心配だと言う人は世の中にいる。そういう人たちが騒いだ中で、何の科学的根拠もなく時の環境大臣が決めた」などと語ったという(発言部分は同紙の記事から引用)。
「年間1ミリシーベルト」は、政府の原子力災害対策本部が昨年6月に決定した基本方針「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」(改訂版)に以下のように明記してある。「住民の方々が帰還し、生活する中で、個人が受ける追加被ばく線量を、長期目標として、年間1ミリシーベルト以下になることを引き続き目指していく」。この文言に続き、線量水準に関する国際的・科学的な考え方を踏まえて対応することについて、「住民の方々に丁寧に説明を行い、正確な理解の浸透に引き続き努める」ことを政府自らに課している。
 国際放射線防護委員会(ICRP)は、原子力災害の「復興期(現存被ばく状況)」にある場合の目標を1~20マイクロシーベルトと勧告し、その範囲での適切な防護をした上での長期目標を「年間1ミリシーベルト」としている。政府は原発事故被災地の避難指示解除要件として「年間20ミリシーベルトを下回る」ことを除染目標を掲げている。

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執筆者プロフィール
寺島英弥(てらしまひでや) ローカルジャーナリスト、尚絅学院大客員教授。1957年福島県相馬市生れ。早稲田大学法学部卒。『河北新報』で「こころの伏流水 北の祈り」(新聞協会賞)、「オリザの環」(同)などの連載に携わり、東日本大震災、福島第1原発事故を取材。フルブライト奨学生として米デューク大に留学。主著に『シビック・ジャーナリズムの挑戦 コミュニティとつながる米国の地方紙』(日本評論社)、『海よ里よ、いつの日に還る』(明石書店)『東日本大震災 何も終わらない福島の5年 飯舘・南相馬から』『福島第1原発事故7年 避難指示解除後を生きる』(同)、『二・二六事件 引き裂かれた刻を越えて――青年将校・対馬勝雄と妹たま 単行本 – 2021/10/12』(ヘウレーカ)、『東日本大震災 遺族たちの終わらぬ旅 亡きわが子よ 悲傷もまた愛』(荒蝦夷)、3.11以降、被災地で「人間」の記録を綴ったブログ「余震の中で新聞を作る」を書き続けた。ホームページ「人と人をつなぐラボ」http://terashimahideya.com/
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