インテリジェンス・ナウ

米国の「対日心理戦略」に疑念示した被爆者:「オバマ広島訪問」に隠された米国の意図

 広島と長崎の「原爆の日」と終戦記念日の式典。今年も、戦後日本の在り方を考えさせられた。例年と違うのは、約2カ月半前にオバマ米大統領が広島を訪問したことだった。
 公式の場では、両市の市長らはオバマ氏の広島訪問を高く評価し、日米両国民の心の傷を癒やしたかに見えた。しかし実は、一部の被爆者たちは大統領のスピーチに強い拒否反応を示していた。彼らの主張で、長崎の「平和宣言」案文の一部は修正を加えられていた。
 事実、広島で大統領が発表した「所感」は被爆地でのスピーチとしては、全く異例の内容だった。ホワイトハウスの「スピンドクター(世論操作の達人)」らが舞台裏で心理戦略、地政学的な戦略を駆使し、一見日本人の心を引きつけたかに見えた。
 戦後、アメリカの対日心理戦略は成功を重ねてきた。1953年1月アイゼンハワー政権が、情報機関も関与した心理戦略委員会(PSB)で策定した「日本に対する心理戦略計画(D-27)」は「アジアにおける米国の目標達成に日本を最大限貢献させる」ため、日本の安保・独立の維持、日米同盟、日本の経済繁栄など9項目の目標を掲げた。在日米大使館内にラジオ部を作ってラジオ番組を制作、民放各局に無料で完全パッケージ番組を配布したりして、日本人の「アメリカ好き」を促進した。
 しかし、終戦から70年を過ぎた今年は転機を記したように見える。

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執筆者プロフィール
春名幹男(はるなみきお) 1946年京都市生れ。国際アナリスト、NPO法人インテリジェンス研究所理事。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授、早稲田大学客員教授を歴任。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(PHP)、『仮面の日米同盟』(文春新書)などがある。
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