「君主号」の世界史 (26)

維新の波紋

執筆者:岡本隆司 2019年3月23日
「大君」徳川慶喜(左)の大政奉還で「二重主権」は消えたが、パークス英公使(右)はその前から「大君」を否定していた

 

 列強は「開国」以来、徳川幕府・大君と条約をとりむすんだ。それなら条約を履行する責任も、もっぱら大君の政府が負うはずである。ところが幕府は、条約を調印するにあたって勅許を申請し、外交権の独占を自ら否定してしまった。いわば内外整合しない行為である。

「二重」の一元化

 こうした事態の根柢には、かつてマシュー・ペリーも記し、列強の外交を主導した初代イギリス駐日公使ラザフォード・オルコックも言及する、日本の「二重」の政体が作用していた。「皇帝」がふたり存在したばかりではない。「聖職的」「精神的」でしかなかった天皇が、にわかに「世俗的」「政治的」な力量をもちはじめたのである。

フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
岡本隆司(おかもとたかし) 京都府立大学文学部教授。1965年、京都市生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。博士(文学)。専門は近代アジア史。2000年に『近代中国と海関』(名古屋大学出版会)で大平正芳記念賞、2005年に『属国と自主のあいだ 近代清韓関係と東アジアの命運』(名古屋大学出版会)でサントリー学芸賞(政治・経済部門)、2017年に『中国の誕生 東アジアの近代外交と国家形成』で樫山純三賞・アジア太平洋賞特別賞をそれぞれ受賞。著書に『李鴻章 東アジアの近代』(岩波新書)、『近代中国史』(ちくま新書)、『中国の論理 歴史から解き明かす』(中公新書)、『叢書東アジアの近現代史 第1巻 清朝の興亡と中華のゆくえ 朝鮮出兵から日露戦争へ』(講談社)、『悪党たちの中華帝国』(新潮選書)など多数。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top