「平和構築」最前線を考える
「平和構築」最前線を考える (17)

「新型コロナ危機」で高まる「武力紛争」の複合性

アフガン、イラク、イエメン、リビア、ソマリア、西アフリカのいま

執筆者:篠田英朗 2020年5月28日
エリア: 中東 アフリカ
コロナ危機などおかまいなく、イエメンでは大規模な戦闘が続いている。ひととき休息する、大統領派と対立するSTC派の兵士たち (C)AFP=時事

 

 国連安全保障理事会が、「新型コロナウイルス」危機における世界の紛争の停戦呼びかけ決議の採択を断念した。WHO(世界保健機関)の位置づけについて、米中対立が深かったからだと伝えられている。

 このことに喜ばしいことは何もない。ただし、国連安保理が停戦呼びかけ決議を採択すると、実際に世界の武力紛争が止まるのか、と言えば、そんなことはないだろう。混乱する世界情勢の中で、国連安保理にも動揺が見られるということだ。

 前回の拙稿(2020年5月1日『「国連事務総長」の訴え空しく「新型コロナ」が悪化させる「国際紛争」』)でも書いたとおり、新型コロナ危機下において、武力紛争をめぐる状況が悪化する傾向がある。

 暴力の度合いが高まっている地域がいくつかあるだけではない。人道・開発援助職員や平和維持活動要員の活動制限、資金枯渇による国際援助・平和活動の停滞の影響、保健政策に労力を払わざるを得ない中央政府の治安対策強化の困難などの影響なども、深刻な問題だ。

 武力紛争は複合的な危機を招くが、新型コロナ危機が重なり合うことによって、その複合性がさらに高まるという現象が起こってきている。

タリバンが圧力をかけ続けるアフガニスタン

 アフガニスタンでは、米軍撤収に向けた米国と「タリバン」の合意が2月末に締結された直後に、新型コロナ危機が到来した。

 現在はまだ、タリバンとアフガン政府双方がそれぞれ拘束している捕虜の解放を行うという最初の段階で、合意の履行が停滞している状態だ。そのためタリバンは、停戦に応じない姿勢を崩していない。

 5月12日には首都カブールの産婦人科病院が襲撃され、新生児ら24人が殺される悲惨な事件も起こった。あまりの事件の衝撃から、政府はタリバンに対する軍事攻勢を強める姿勢を表明した。

 米国特使のザルメイ・ハリルザードは、犯行は「IS」(イスラム国)によるものだと述べたが、タリバンが犯行声明を出している政府系施設への攻撃が、各地で相次いでいるのも事実だ。

 進展と言えるのは、タリバンとの対話が停滞する中で、対立していたアシュラフ・ガニ大統領とアブドゥラ・アブドゥラ元外相が、統一政府をつくることで5月17日に合意したことであろう。

 タリバンとの対峙を辞さないのであれば、両者が対立し続ける余裕はない、という力学が働いたようだ。タリバンとの交渉をアブドゥラ元外相が担当することになったのが、どのような展開を見せるかは注目である。

 一方、新型コロナ感染が蔓延する中での「医療崩壊」も伝えられている。しかもアフガニスタンに特有なのは、重症患者が医療施設を圧倒する前に、医療従事者が職場放棄をしているという現象だ。これは、新型コロナに対する防御施設があまりにも脆弱だという事情に加えて、この状況を狙って病院施設を攻撃してくるテロリスト勢力が、状況の悪化に拍車をかけているのだ。

 アフガニスタンは、感染爆発を起こしたイランとの間の国境封鎖を行わなかった。

 国境線の全てが陸上にある内陸国アフガニスタンには、そもそも国境封鎖をする能力がない。しかもいたずらに国境を封鎖すれば、イランやパキスタンとの間を行き来する、大量の移民労働者の移動を管理する負担もかかってくる。それはかえって政府の行政能力を圧倒し、混乱を招くだけに終わる、という判断のようだ。

 結果として、急激に広がる感染者に対してなすすべがないような状況になっている。限られた検査能力なので、もちろん全貌には程遠いが、それでも毎日数百人の感染者が判明し、5月23日の時点で、1週間で倍増するペースで増加して累積感染者数は1万人以上となり、死者数は200人以上とされる。

 生活物資の価格高騰、援助物資の停滞、周辺国による食料提供の停止、失業率の上昇、海外送金額の下落など諸々の要素も、危機に拍車をかけている。まもなく餓死者が数多く発生し、社会不安が増大するとも懸念されている。

 自らの支配地域における危機の広がりを警戒しながら、政府に圧力をかけることを怠らないタリバン、危機に乗じて混乱を助長しようとしているIS勢力などをにらみながら、最悪の事態を回避するために政府と国際社会に何ができるかが、問われている。

復活を期するISと対峙するイラク

 ラマダンが始まった4月24日以降の1カ月弱で、テロリスト勢力による攻撃により500人以上の死者が出たと報道されている。

 特に攻撃が目立つのが、復活を期するISだ。ISは「ラマダンの戦い」を宣言し、主にイラクにおいて自爆攻撃を繰り返している。新型コロナ危機に直面して、イラク軍と米軍のプレゼンスが大きく下がったところを狙っている流れだ。しかもISの狡猾な作戦は、地方部の部族の治安組織を狙っている。

 弱体化しているISには、領土を支配するような勢いはない。その代わりに、治安機構の脆弱な部分を狙い、世情不安を高める行動に出ている。

 イラクでは、昨年11月にアディル・アブドゥル・マハディ首相が辞任してから、組閣ができない状態が続いていたが、ようやく5月6日にムスタファ・アル=カディミ氏の首相就任が決まったところだ。

 カディミ首相は、テロ対策で成果があるにもかかわらずマハディ前首相に更迭されていたアブドゥル・ワハブ・アル=サディ中将を復職させ、テロ対策の充実を図ろうとしている。

 他方で、反政府デモに参加して拘束された者たちの釈放を命じるなど、一般民衆に対しては融和的な政策をとろうとしている。ただし、釈放が裁判所手続きに阻まれて実現しないなど、前途は多難である。

 4月26日現在、イラクの確認済コロナ感染者数は4848人で、死者数が169人である。

 3月17日以降ロックダウンが続いているが、必ずしも劇的な感染拡大の抑え込みに成功しているとはまでは言えない間に、ISの活動の活発化を許してしまった。政治情勢の不安定に加えて、原油価格の低迷という経済面での深刻な情勢もある。改善が見られないアメリカとイランの関係の余波も受けやすく、イラクの困難は続く。

閉塞感漂うイエメン

 イエメンでは、イランと結びつくフーシ派と対立する、政府側勢力側の分裂が悪化している。サウジアラビアが支援するアブドラボ・マンスール・ハディ大統領派と、UAE(アラブ首長国連邦)の支援を得て「南部暫定評議会」(Southern Transitional Council:STC)を設立した勢力が敵対しているのだ。

 STCは4月26日、新型コロナ危機に伴う緊急事態宣言とともに、南部の自治宣言を行った。これにハディ大統領の政府機構は強く反発し、STCが掌握している南部の要衝アデンに政府軍を攻め込ませた。そのため両派は、5月になって軍事衝突を起こしている。

 イエメンではすでに政府側だけでなく、フーシ派支配地域でも新型コロナ感染者が発生していることが判明している。ただし、すでに医療崩壊が起こってしまっているような状態では、対応をするどころか、事態の様子をつかむことすら難しいようだ。

 昨年度は40億ドル(約4300億円)の国際援助を受けていたイエメンだが、今年はまだ6.7憶ドル(約720億円)しか集まっていないという。この事態を受けて、国連は6月2日に援助国会議を開く予定だ。

 しかし開催地をサウジアラビアに設定せざるをえなかったことは、国連の苦しい立場も物語る。事実上の紛争当事者であるサウジアラビアをホストにした会議では、信頼度が低い。

 原油価格の低迷と自国内の感染者・死者の増加に悩むサウジアラビアではあるが、イエメンへの支援の額面では際立っているため、無視することはできない。世界最悪のコロナ被害に苦しむ欧米諸国からの大規模援助が期待できない中、世界最大の人道援助の現場であるイエメンをめぐって漂う閉塞感は大きい。

内戦が泥沼化したリビア

 リビアでは、東部地域を拠点にしたハリファ・ハフタル司令官のリビア国民軍(Libyan National Army:LNA)が、過去1年以上にわたって首都トリポリを攻略する軍事作戦を続けている。LNAは、リビア領内の大半の石油施設を押さえているだけでなく、ロシア、エジプト、UAEを後ろ盾としている。今年の1月にベルリンで和平会議が開かれたが、目に見えた成果は出せなかった。

 4月中旬以降の新しい展開として、トルコの支援を受けたトリポリのファーイズ・ムスタファ・アル=シラージュ首相率いる国民合意政府(Government of National Accord:GNA)が軍事攻勢を強めたことがある。

 GNAは、5月18日にトリポリ近郊のLNAのアル=ワティヤ空軍基地を制圧するなど、ロシアの民間軍事会社の「ワグナー・グループ(Wagner Group)」が運営していたとされるLNA側の軍事拠点の幾つかを掌握したり破壊したりした。結局LNAは、トリポリに近づけずに押し戻された格好になっている。

 もっともハフタル司令官は、まだトリポリ攻略は諦めていないようで、「トルコの植民地主義」に抗する「聖戦」を戦い抜くと、ラジオ放送を通じて自軍の兵士の士気を鼓舞している。

 ドナルド・トランプ米大統領は、リビアの戦闘の低減を求め、5月23日にトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領に電話をして働きかけた。

ハフタル司令官は、イスラム過激派を警戒する諸国からの支持を集めてきた経緯があり、また米国で事実上の亡命をしていた時間も長いため、米国もハフタル司令官支援に動いていたように見えた時期もあった。

 ただし米国は、現在のリビア情勢に必ずしも深くは関わっておらず、中立的に行動しようとしているようである。恐らく石油施設の扱いなどを話したのだろう。

 これに対してトルコ政府としては、国際社会が団結して「軍事独裁」を目指すハフタルに対抗するべきだ、という姿勢を崩していない。トルコは名指しでUAEを非難し、ロシアがリビアから手を引くことを要請している。

 5月初旬にリーク記事として報道された国連制裁委員会の資料によれば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の意向を受けてウクライナやシリアなど各地で暗躍する「ワグナー・グループ」は、約1200名の私兵をリビアに送り込んでいるという。

 リビアでは5月26日時点で、公式には77名のコロナ感染者と、3名の死者しか出ていない。ただし隣国でLNAを支援しているとされるエジプトは、感染者1万8756人(死者797人)という被害を出している。ロシアやUAEに至っては、それぞれ36万2342人(死者3807人)、3万1086人(死者253人)と、さらに厳しい状況だ。コロナ対応と原油価格の低迷によって、いずれもLNAへの支援を強化したい時期ではない。

 もっともトルコのほうも、4月下旬以降に落ち着いてきているとはいえ、感染者15万8762人(死者4397人)を出しており、経済情勢の悪化も伝えられている。リビアでは、泥沼の内戦が続く。

整い始めた統治体制が揺らぐソマリア

 分裂国家の状態が続いていながらも、首都モガデシュ近郊では連邦政府の統治体制がそれなりに固まってきていたソマリア。だが、社会インフラが脆弱な状態で迎えた新型コロナ危機は、大きな試練だ。イスラム勢力「アル・シャバブ」は、コロナ危機の渦中でかえって攻勢を強めた。

「アフリカ連合ソマリア・ミッション」(AMISOM)の平和維持部隊は、南西部ジュバランド地域などで活発化しているアル・シャバブの攻勢に対して、市街地を防衛する作戦にあたりながら、コロナ対策にも従事している。施設における検温だけでなく、住民に対する手洗いや咳エチケットなどの意識喚起活動にまであたっている。

 5月上旬には、コロナ対策の医療物資を運ぶためにソマリアに向けて飛行していたアフリカン・エクスプレス航空の民間機が、エチオピア軍の誤射によって撃墜されるという事件が起こった。ソマリアでは、5月中旬に河川の氾濫を招く大雨が降り、数十人の死亡が確認されただけでなく、40万人が家を追われた。

 課題が山積する中で、AMISOMの今年末の公式活動期限が近づいてきている。資金提供をしてきたEU(欧州連合)の加盟国が軒並みコロナで痛めつけられた後、やはりコロナで苦しむアフリカの周辺国で構成されているAMISOMの行方はどうなるのか。不透明感が漂う。

ラマダン明けに過激派が攻勢の西アフリカ

 ラマダンの終了を祝う「イド・アル=フィトル」の時期になると、毎年、西アフリカではイスラム過激派の攻撃が活発になるという。例年通りに5月中旬から、ナイジェリアのイスラム過激組織「ボコ・ハラム」だけでなく、その分派である「西アフリカのイスラム国」(Islamic State in West Africa Province: ISWAP)も、自爆攻撃やロケット攻撃を仕掛け、多数の死傷者を出している。

 ボコ・ハラムは、隣国のニジェールでも活発な軍事行動を起こし、政府軍と交戦している。

 チャドでは拘束したボコ・ハラムの兵士を、政府軍が虐待死させた疑いが浮上して問題となっている。コロナ感染も広がる中、諸国とボコ・ハラムなどの勢力との戦いも、先行きが見通せない状況だ。

流動化する世界情勢

 新型コロナ危機が与える国際政治の全体傾向への影響としては、米中対立の悪化が強調される。

 もちろん超大国間の構造的な確執が大きな問題であることに疑いはない。しかし、局地的な武力紛争にも様々な影響が見られる。

 ここまで目立った武力衝突が起こっている地域を拾い上げてみたが、他にも南スーダン、カシミール、ミャンマー、ブルンジなどにおいても、政治対立が深まっている。新型コロナ危機の影響を受けながら、世界情勢は流動化の度合いを高めている。

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執筆者プロフィール
篠田英朗 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学大学院政治学研究科修士課程、ロンドン大学(LSE)国際関係学部博士課程修了。国際関係学博士(Ph.D.)。国際政治学、平和構築論が専門。学生時代より難民救援活動に従事し、クルド難民(イラン)、ソマリア難民(ジブチ)への緊急援助のための短期ボランティアとして派遣された経験を持つ。日本政府から派遣されて、国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)で投票所責任者として勤務。ロンドン大学およびキール大学非常勤講師、広島大学平和科学研究センター助手、助教授、准教授を経て、2013年から現職。2007年より外務省委託「平和構築人材育成事業」/「平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業」を、実施団体責任者として指揮。著書に『平和構築と法の支配』(創文社、大佛次郎論壇賞受賞)、『「国家主権」という思想』(勁草書房、サントリー学芸賞受賞)、『集団的自衛権の思想史―憲法九条と日米安保』(風行社、読売・吉野作造賞受賞)、『平和構築入門』、『ほんとうの憲法』(いずれもちくま新書)、『憲法学の病』(新潮新書)など多数。
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