さらに進行した「米国内の分断」と「バイデン氏への幻想」

執筆者:足立正彦 2020年9月7日
エリア: 北米
 

 月刊の国際政治経済情報誌として1990年3月に誕生した『フォーサイト』は2010年9月にWEB版として生まれ変わり、この9月で10周年を迎えました。

 これを記念し、月刊誌の時代から『フォーサイト』にて各国・地域・テーマの最先端の動きを分析し続けてきた常連筆者10名の方々に、この10年の情勢の変化を簡潔にまとめていただきました。題して「フォーサイトで辿る変遷10年」。本日より平日正午に順次アップロードしていきます(筆者名で50音順)。

 第1回目は【アメリカ】足立正彦さんです。

 

 フォーサイトは10年前の2010年9月にWEB化されたが、米国ではその前年1月、「1つの米国」を訴えてホワイトハウスを射止めたバラク・オバマ大統領が誕生していた。

 その政権始動から1カ月も経過していなかった2009年2月、与党・民主党が米議会上下両院で多数党の立場を確保する中、米国が金融危機に陥ることを回避すべく「米国再生・再投資法」を成立させた。

 さらに翌年3月には、医療保険制度改革法案、通称「オバマケア」も成立させている。

 だが同時に、こうした連邦政府主導による大規模な財政出動に猛反発する保守派有権者らが、全米各地で自然発生的に繰り広げた草の根運動の「茶会党運動」(ティーパーティー)が急速に拡大しつつあったのが、2カ月後に中間選挙を控えた10年前のこの時期であった。

 そして民主党は、2010年中間選挙の下院議員選挙で改選後63議席を失う歴史的大惨敗を喫した。

 近年、党派対立が益々先鋭化する中、2006年から2018年までに行われた4度の中間選挙で、与党は上下両院のいずれかで多数党の立場を必ず失うようになっており、厳しい政権運営を強いられてきた。大統領選挙で敗北した野党の支持者が、与党に対して2年後の中間選挙で打撃を与えるべく明確な投票行動を行うことがパターン化してきている。

 4年前の2016年大統領選挙では、米国内の分裂状況が生み出したドナルド・トランプ氏が大統領に当選した。そしてトランプ大統領は分断による統治を行い、昨年秋には野党・民主党が大統領弾劾プロセスを推し進め、米国の分断はさらに深まっている。

 上院本会議でのトランプ大統領指名の閣僚承認採決では、上院の現有議席をそのまま反映した採決結果となる傾向があり、従来までは見受けることができなかった、閣僚指名がどうにか承認される光景が当たり前となってしまっている。

 11月3日に投票が行われる大統領選挙で仮にジョー・バイデン前副大統領がトランプ再選を阻止し、米国を1つにまとめつつ統治しようと努めても、そのようにはならない程米国の分断、党派対立は進行してしまっているのがこの10年で明らかになった展開である。米国の有権者は、相反する両極へと自らを押しやっている。

 民主党支持者はバイデン氏の36年間の上院議員、8年間の副大統領という豊富な政治経験に期待を寄せているが、次期大統領に当選したとしても、そうした彼の経験をも押し流す程強烈な分断、党派対立が待ち受けているように筆者には映っている。

 

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
足立正彦(あだちまさひこ) 住友商事グローバルリサーチ株式会社シニアアナリスト。1965年生まれ。90年、慶應義塾大学法学部卒業後、ハイテク・メーカーで日米経済摩擦案件にかかわる。2000年7月から4年間、米ワシントンDCで米国政治、日米通商問題、米議会動向、日米関係全般を調査・分析。06年4月より、住友商事グローバルリサーチにて、シニアアナリストとして米国大統領選挙、米国内政、日米通商関係、米国の対中東政策などを担当し、17年10月から米州住友商事ワシントン事務所に勤務、20年4月に帰国して現職。
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