「抵抗と絶望」の間で揺れる「香港」と「脱中国」を強める「台湾」

執筆者:野嶋剛 2020年9月15日
タグ: 香港 台湾
エリア: アジア
 

 

 月刊の国際政治経済情報誌として1990年3月に誕生した『フォーサイト』は2010年9月にWEB版として生まれ変わり、この9月で10周年を迎えました。

 これを記念し、月刊誌の時代から『フォーサイト』にて各国・地域・テーマの最先端の動きを分析し続けてきた常連筆者10名の方々に、この10年の情勢の変化を簡潔にまとめていただきました。題して「フォーサイトで辿る変遷10年」。平日正午に順次アップロードしていきます(筆者名で50音順)。

 第7回は【香港・台湾】野嶋剛さんです。

 

 香港は激動の10年だった。

 2012年の愛国教育反対運動、2014年の雨傘運動を経て、香港への圧力を強める中国に対する反発がつのり、2019年の逃亡犯条例改正案反対運動で一気に爆発した。

 そして今年、中国は反転攻勢に出た。全国人民代表大会で香港の頭越しに国家安全維持法案を可決し、新型コロナウイルス感染拡大を理由に親中派不利と見られた立法会選挙を延期。同法を盾に民主派勢力の弾圧を続けている。

 香港で『十年』という5作品のオムニバス映画が上映され、大きな反響を呼んだのは、この10年の中間点にあたる2015年のことだ。映画では、香港で広東語が使えなくなり、香港を「地元」と呼ぶ言葉が摘発され、絶望した市民が焼身自殺を起こす。ディストピアと呼べるようなあまりに悲観的な内容に、「これは現実的じゃない」という声も上がったものだが、その後の香港はまさに『十年』の世界に近づいている。

 監督の1人に数年前にインタビューしたことがあるが、「自分たちの作品は警告のつもりだったが、予言書のようになっていきそうで怖い」と語っていた。

 8月に逮捕された活動家のアグネス・チョウ(周庭)さんは、「最後の最後まで抵抗し続ける」という歌詞のある欅坂46の『不協和音』を拘置中に歌っていたことで話題になったが、香港社会はいま「抵抗」と「絶望」の間で揺れている。

 一方、香港と同様に「一国二制度」を突きつけられている台湾の現状は、香港とは対照的だ。

 台湾政治はこの10年、国民党の馬英九政権で対中接近が進んだかと思ったら、2016年に誕生した民進党の蔡英文政権では、中国との距離が一気に広がった。

台湾では政権交代によって対中政策がガラッと変わる。国民も、その時々の情勢によって国民党と民進党を選び分けてきたが、香港問題や米中新冷戦の煽りを受けて、対中融和を唱える国民党の存在基盤は回復不能と思えるほど大きく削られてしまった。

 台湾は、「脱中国」や「独立」などの指向性を持った民進党を中心とする勢力一色に染まりつつあるが、問題は中国がこれを座視するかどうかであり、台湾に対して軍事と経済を絡めた圧力を強めてくる可能性は高い。

 そもそも香港・台湾情勢の変化は、2012年に登場した習近平政権による対外強硬路線や中国民主化への失望から生み出されている部分が大きい。中国が変わったので、香港・台湾も変わらざるを得なかったのである。その意味では、香港・台湾の激変は、中国問題の延長線上にあるものとして考えていくべきで、日本の対中関係とも当然結びついている。

 次の10年、米中新冷戦の最前線に押し出された香港・台湾の情勢は、さらに不安定で視界不良なものになるだろう。「香港が国家安全維持法で“終わった”」と考えるのも、「民進党の優勢で中国は台湾に手出しができなくなった」と考えるのも、まだまだ時期尚早であり、慎重な香港・台湾観察の継続が求められる。

 

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カテゴリ: 政治 IT・メディア
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執筆者プロフィール
野嶋剛 1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)など。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com
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