「平和構築」最前線を考える (28)

惨状「ミャンマー」に今こそ必要な日本の人道援助と「ワクチン外交」

執筆者:篠田英朗 2021年8月4日
エリア: アジア
ミャンマー西部・ラカイン州でのワクチン接種の様子。ワクチンはシノファーム(中国)製だ (C)EPA=時事
国軍支配とコロナ禍の二重苦にあえぐミャンマーに対する日本の対応は、鈍さだけが目立つ。「最大の援助国」と胸を張りたいのならば、まさに今、ワクチンの供与を含む人道援助を積極的に行うことが必要だ。

 2月1日にミャンマーでクーデターが発生してから、半年が経った。苛烈な抑圧によって945人の犠牲者と7000人以上の拘束者が出たミャンマーでは、現在は新型コロナウイルスの被害も甚大になっている。社会的機能の低下が、被害を大きくしていることは言うまでもない。国軍が医療資源を独占したり、反国軍派の市民を治療する医療従事者を攻撃したりする異常事態も報じられている。

 ミャンマーについては、危機の初期段階から人道的惨禍の恐れが指摘されていた。私も、人道援助こそが、国際社会が尽力しなければならない領域だと書いてきた。特に日本は、政治介入を嫌うのであれば、なおさら人道援助に力を入れるべきだ、と主張してきた(2021年6月24日『巧妙に続くミャンマー国軍「恐怖支配」に日本が果たすべき「責任」』)。この要請は、デルタ株が予想を上回るスピードで拡散した新型コロナ危機の深刻化によって、いっそう強まっている。

カテゴリ: 軍事・防衛 政治 社会
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執筆者プロフィール
篠田英朗(しのだひであき) 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学大学院政治学研究科修士課程、ロンドン大学(LSE)国際関係学部博士課程修了。国際関係学博士(Ph.D.)。国際政治学、平和構築論が専門。学生時代より難民救援活動に従事し、クルド難民(イラン)、ソマリア難民(ジブチ)への緊急援助のための短期ボランティアとして派遣された経験を持つ。日本政府から派遣されて、国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)で投票所責任者として勤務。ロンドン大学およびキール大学非常勤講師、広島大学平和科学研究センター助手、助教授、准教授を経て、2013年から現職。2007年より外務省委託「平和構築人材育成事業」/「平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業」を、実施団体責任者として指揮。著書に『平和構築と法の支配』(創文社、大佛次郎論壇賞受賞)、『「国家主権」という思想』(勁草書房、サントリー学芸賞受賞)、『集団的自衛権の思想史―憲法九条と日米安保』(風行社、読売・吉野作造賞受賞)、『平和構築入門』、『ほんとうの憲法』(いずれもちくま新書)、『憲法学の病』(新潮新書)など多数。
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