「海軍」視点から見る「プーチンの戦争」の不合理と脆さ

ウクライナの南部には黒海が広がり、そこではロシアの艦隊が活動している ©2022 Google
ウクライナに侵攻したロシア陸軍の苦戦ぶりは、ウクライナ側の積極的な情報発信により世界中に伝えられている。では、あまり目に触れない海上での軍事行動からは何が見えてくるのか。黒海艦隊、太平洋艦隊の動向を検証して浮かび上がるロシア軍の不合理な行動は、やはりプーチンの思惑が外れたことを示していると元海将は読み解く。

 

南東部とキエフ方面で「まったく異なる戦い方」

 今回のロシアによるウクライナ侵略について筆者は、軍事的合理性を欠いた、専ら政治的な動機だけで始められた戦争とみている。その証拠に、開戦に先立つ今年1月31日、退役軍人でつくる「全ロシア将校の会」はHPで、ウクライナ侵攻を思いとどまり、ウラジーミル・プーチン(以後呼び捨てにする)退陣を強く求める声明を発表した。会長のレオニード・イワショフ退役大将(78歳)は、元々NATOの東方拡大反対論者の保守派だが、「キエフを占領したら、何年も滞在する必要がある」「数万人の若いロシア兵士が死ぬ」とラジオでも語り、開戦したら泥沼化することを予想していた。現実にロシア軍は、開戦から約1カ月が経っても首都キエフを攻略すらできず、ロシアは国際的孤立に陥った。

この記事だけをYahoo!ニュースで読む>>
カテゴリ: 軍事・防衛 政治
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
伊藤俊幸(いとうとしゆき) 元海将、金沢工業大学虎ノ門大学院教授、日本戦略研究フォーラム政策提言委員、日本安全保障・危機管理学会理事。1958年生まれ。防衛大学校機械工学科卒業、筑波大学大学院地域研究科修了。潜水艦はやしお艦長、在米国防衛駐在官、第二潜水隊司令、海幕広報室長、海幕情報課長、情報本部情報官、海幕指揮通信情報部長、第二術科学校長、統合幕僚学校長を経て、海上自衛隊呉地方総監を最後に2015年8月退官。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top