ロシア・ウクライナ戦争が終わらせた米ロ軍備管理体制:核の恫喝が対中抑止に持つ含意(下)

執筆者:秋山信将 2022年6月14日
現状の中国には米ロとの軍備管理を議論する意志が見えてこない(中国建国70周年軍事パレードに登場したICBM「東風41」。手前は閲兵する習近平国家主席=2019年10月1日)   (C)時事/中国中央テレビのウェブサイトより
現状維持国家(米国)、現状変更国家(中国)、衰退国家(ロシア)の戦略的目標が違う以上、この三者で軍備管理体制を築くのは容易ではない。また極超音速滑空体の開発などにより、核・非核アセットの境界もあいまいになっている。冷戦期の制度設計がついに真の終焉を迎えるなか、日本は新たな制度の模索にどう関わって行くべきか。(こちらの前編から続きます)

「戦略的安定性」の動揺

   軍備管理の役割は、一義的には「戦略的安定性」の維持にあると言われている。すなわち、相互確証破壊の状態にある国家同士の対立が先鋭化し武力衝突にエスカレート(それは核使用を、究極的には全面戦争を意味する)することを回避し(危機の安定性)、安全保障のジレンマ(双方が、自らの安全を追求するがゆえに相手を不安な状態に陥れること)が生じぬよう軍拡競争を抑制することで(軍備競争の安定性)、米ロ関係の破綻と破局的な結末の防止が予定されてきた。つまり、単に相互抑止の状態にあるだけではなく、その状態を安定化させるためにルールを決めて「制度化」し、両者の行動が予見可能な状態を維持できるような関係性に貢献したのが軍備管理である。

カテゴリ: 軍事・防衛 政治
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執筆者プロフィール
秋山信将(あきやまのぶまさ) 1967年生れ。一橋大学大学院法学研究科教授、一橋大学国際・公共政策大学院長。専門は国際政治。特に、安全保障、軍備管理・軍縮、不拡散、エネルギー安全保障。広島市立大学講師、日本国際問題研究所主任研究員、在ウィーン国際機関日本政府代表部公使参事官などを経て現職。著書に『核不拡散をめぐる国際政治 ―規範の遵守、秩序の変容』(有信堂高文社、2012年)、『NPT―核のグローバル・ガバナンス』(岩波書店、2015年、編著)、『日米安保と自衛隊(シリーズ日本の安全保障 2)』(岩波書店、2015年、共著)、『「核の忘却」の終わり―核兵器復権の時代』(勁草書房、2019年、共著)など。博士(法学)。
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