変容するロシア・ウクライナ戦争の構図――NATO諸国からの武器供与を引き出す戦い

執筆者:鶴岡路人 2022年8月29日
エリア: 北米 ヨーロッパ
ウクライナ有利の可能性を示すことは、軍事的なものであると同時に政治的なものでもある[ウクライナ独立記念日の8月24日、キエフを訪れたジョンソン英首相(左)とゼレンスキー大統領](C)EPA=時事
これまでの戦争の長期化は、ウクライナによる敗北・降伏の回避を意味した。ただし今後、戦争の長期膠着化を避けるには、NATO諸国が武器供与を拡大し、ウクライナがロシア軍を追い返すために必要な武器を迅速に供与することが必要だ。榴弾砲やHIMARSといった火力に加え、戦車や戦闘機なども必要になる。秋から冬にかけエネルギー不足が避けられぬ中、そこまで踏み込むことが可能なのか。ボールは米国を中心としたNATO側にある。

 2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵略の開始から、半年が経った。戦争はまだ続いている。戦争の長期化は多くの犠牲を生む。しかし、戦争が短期で終了したとすれば、どのような戦争になっていたのだろうか。ウクライナが短期決戦で勝利した可能性は――そもそも侵略を始めたのがロシア側だったという意味で論理上も、そしてロシア優位の兵力差を考えれば現実問題としても――存在していなかった。つまり短期戦だとしたらロシアの勝利が不可避だった。ウクライナが勝利する、ないし少なくとも負けないためには、少しでも長く抵抗する、つまり長期戦に持ち込むほかなかったのである。この理解が全ての出発点になる。

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
鶴岡路人(つるおかみちと) 慶應義塾大学総合政策学部准教授、戦略構想センター・副センター長 1975年東京生まれ。専門は現代欧州政治、国際安全保障など。慶應義塾大学法学部卒業後、同大学院法学研究科、米ジョージタウン大学を経て、英ロンドン大学キングス・カレッジで博士号取得(PhD in War Studies)。在ベルギー日本大使館専門調査員(NATO担当)、米ジャーマン・マーシャル基金(GMF)研究員、防衛省防衛研究所主任研究官、防衛省防衛政策局国際政策課部員、英王立防衛・安全保障研究所(RUSI)訪問研究員などを歴任。著書に『EU離脱――イギリスとヨーロッパの地殻変動』(ちくま新書、2020年)、『欧州戦争としてのウクライナ侵攻』(新潮選書、2023年)など。
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