人気YouTuberだった18歳が渡米して挑戦、web3でつくる「未来の小売」

「web3」で変わる実体経済 (1)

執筆者:夏目英男 2022年10月25日
エリア: アジア 北米
DeStoreでの大東樹生氏
実体経済との繋がりが見えづらい「web3」には、「存在しない課題を解決している」という辛辣な評価もある。中学時代からYouTuberとして活躍し、18歳で起業と渡米、現在はサンフランシスコでweb3を使った実店舗経営に挑む大東樹生氏が語る、小売業界がweb3に見出す活路とは。

 世界のインターネット産業の集積地となっているサンフランシスコ・ベイエリア。戦前には防衛産業がこの地で勃興し、エリア南部に位置するスタンフォード大学も同分野の研究に乗り出したことから、技術移転で多くのベンチャーが誕生した。

 トランジスタの発明者の一人でもあるウィリアム・ショックレーもまた、この地で半導体を開発・製造する「ショックレー半導体研究所」を立ち上げた。ここから分化した企業が世界初の半導体集積回路の商業生産を開始したフェアチャイルドセミコンダクターや、インテルとなる(これが「シリコンバレー」という通称の由来ともなる)。今ではGoogleや、Apple、Facebook、UberなどといったWeb2(従来のプラットフォーム型インターネットサービス)の企業がひしめいている。

 そんなサンフランシスコの地で、web3(次世代の分散型インターネット)の領域で挑戦する日本人の若者を取材した。サンフランシスコのヘイズバレーで小売×DAO(Decentralized Autonomous Organization=分散型自律組織)のビジネスモデルを実現したDeStoreを運営する大東樹生氏だ。

 大東氏は中学生の頃からファッション系YouTuberとして活躍し、高校に進学後、筆者が所属するEast VenturesとSkyland Venturesが共同で運営するHiveShibuyaというシェアオフィスを度々訪れていた。その中で、大東氏とそこまで年齢が変わらない若手の起業家たちが日々シェアオフィスで切磋琢磨する姿を見て、彼は起業という進路を見出し、高校卒業と同時に起業を決意。さらに、起業するのであればイノベーションが絶え間なく生まれ続ける場所に身を置こうと、弱冠18歳で単身渡米した。

 彼が現在運営しているDeStoreは、NFT(非代替性トークン)を会員権として発行し、NFT会員となったメンバーがDAOの店舗で販売するブランドや商品の選定、店舗の運営を行う、共同運営型の小売店プロジェクトだ。

 直近では、大手コーヒーチェーンのスターバックスがNFTを活用したポイントプログラムを開始したり、日本でもホテルの開発・運営をするスタートアップ企業のNOT A HOTELがNFTメンバーシップ会員権を販売したりするなど、web3×実体経済の展開に注目が集まっている。そんな彼が見据えるweb3と実体経済の結びつき、そして今後について話を聞いた。

中学生ファッション系YouTuberが起業を志すまで

――18歳で渡米したきっかけを教えてください。

 僕は中学生の頃から、日本初のファッション専門YouTuberとして活動をしていました。当時は、YouTube上でファッション関連のコンテンツの視聴数が他の動画よりも顕著に伸びていたにもかかわらず、それを専門に配信している人がいなかったので、参入しました。

 視聴者の中には、僕の動画をきっかけにファッションを好きになる人や、ファッションデザイナーを目指すために服飾学校へ通うことになった人もいて、自分が作り手として携わったものが世の中にポジティブな影響を与えていることにとても価値を感じていました。

 高校に進学すると、今後の進路について考え始め、ファッションYouTuberとして一定の成果を残すよりも、人々に価値を届ける、あるいは人々の人生をガラッと変えるような体験を作りたいという気持ちが芽生えました。さらに、起業について学ぶなら、起業家の側にいるのが最善の選択肢だと考え、東京・渋谷の道玄坂にあるHiveShibuyaに度々お邪魔することにしました。

 まだ高校生でYouTuberとしての活動も並行していたので、土日しか行けませんでしたが、そこで起業家の方々と交流する機会を得て、彼らの生き方や志に感銘を受け、本格的に起業の道を歩むことを考えました。加えて、高校3年次には父親の仕事の関係で英国へ移住し、日本だけをターゲットにするのではなく、最初からグローバルを目指して起業することを決意しました。

――その後はすぐに渡米したのですか?

 はい。高校卒業したばかりの18歳で仕事経験もなく、英語にも不安を抱えていましたが、今でもお世話になっているシリアルアントレプレナー(連続起業家)の小林清剛さんの「世界で勝負したいのであれば、一刻も早くここ(米国)に来て、起業家として経験を積むことが大事」という言葉を記事で見たことで迷いが消えました。自分が成功するかどうかが一定の運に左右されるのであれば、当たるまで続けることが唯一成功を担保する手段だと考え、最初からグローバルでバットを振り続けることにしました。

 思い立ってからわずか数カ月で、僕は単身でサンフランシスコ行きの飛行機に乗り込み、米国での挑戦が始まりました。

18歳で単身渡米、最初の事業はあえなく失敗

――渡米されてから、いくつかのプロダクトを開発されていたと思うのですが、なぜweb3の領域にピボット(事業転換)することを決めたのですか?

 当初は、ファッションYouTuberの経験を活かし、ファッションの領域で挑戦しようとしました。まずは付け髭を作り、後にウィッグの制作へと移行しました。しかし、自分のニーズから始めたビジネスで、世間のニーズとはズレが生じ、誤った思い込みが発生してしまいました。そこで、僕の米国でのファーストトライはあえなく失敗に終わりました。次に、ファッションから遠くないものとして「購買体験」に目をつけ、様々なブランドが2週間ごとに入れ替わる、ディスカバリー(発見から始まる購買)に特化した小売店舗の展開を決めました。それが今運営しているDeStoreの前身です。

DeStoreの前身だった店舗

 しかし、こちらの小売店舗の運営も予想に反し、上手くいきませんでした。事業自体は、コロナがやや落ち着いた2021年に着想したのですが、当時はロックダウンの反動から、オフラインの消費が一時的に盛り上がりを見せた時期でした。その中で実店舗の運営に乗り出したのですが、ほとんどの顧客はオフラインでディスカバリーする際に、商品の購入よりもコミュニティ体験を求めて来店していたことに気がつきました。

 商品だけを求めている顧客は、実店舗で商品を試して、オンラインで購入するサイクルでしたが、商品よりも体験を求めて来店する顧客が多いことがわかったのです。それは米国の大手D2C(Direct to Consumer、消費者直接取引)ブランドや、百貨店の役員などにヒアリングしても同じような回答を得ることができました。

 そこで、僕はコミュニティの体験を最大化し、顧客にとって帰属意識の強いコミュニティ形成を初期から実施できる術を探しました。奇しくも、それが2021年の年末。米国をはじめ、各国でweb3元年を迎えて、起業家の間でもweb3のモメンタム(勢い)が形成されていた時期でした。僕の周りの起業家は皆web3の領域に参入し、サンフランシスコ・ベイエリアでもGAFA出身者が次々と退社し、数多くのweb3関連のサービスを立ち上げていました。

 この波は、これまで幾度となくあったブロックチェーンの波とは異なり、ブロックチェーンに理解が乏しい人々でもアプリケーションで実用化に落とし込み、理解できるレベルまで進んでいました。言い換えると、web3という大波はそれだけ瞬時に僕を含めたサンフランシスコ・ベイエリアの起業家に押し寄せ、その可能性にあっという間に魅了されていきました。

 web3では、プロダクトにオーナーシップを分配します。つまり、ユーザーは一利用者でありながら、オーナーとなることもできます。現在、僕たちが運営しているDeStoreは、先にもお話ししたように、帰属意識の強いコミュニティを小売店で作ることが未来の小売トレンドになると確信したため、顧客自身がステークホルダーとなり、彼らが共同所有する小売店を作ることを徹底しました。結果として、NFTを会員権として発行し、NFT会員となったメンバーがDAOの一員として、小売店を運営するweb3プロジェクトにピボットしました。

web3は「存在しない課題」を解決している?

――web3の領域はまだ実体経済との結びつきが少なく、“存在しない課題”を解決しているという評価もあります。

 正直なお話をすると、web3の領域においては、未だユーザーが少ないため、現状では“そうなってしまっている”プロダクトが多いというのは事実でしょう。しかし、それは悪いことではありません。どのテクノロジーもそうですが、まずはアーリーアダプター層(新しい商品やサービスを比較的早い段階で取り入れる人々) への浸透から、マスアダプション(大衆への適応)が始まると思います。今は、web3が普及した時を前提にしたプロダクトが数多く誕生しており、現状では実体経済における課題解決に繋がっていないかもしれませんが、結果的にweb3が普及した際に意味があるものとなっていると思います。

 またweb3プロジェクトの特徴の一つに、公共財として成立しているプロジェクトや、利用者またはグループの思想を体現するプロジェクトが多くあることが挙げられます。それらをビジネスの視点から評価した批判もしばしば見かけますが、そもそも彼らが闘っているフィールドが従来のビジネスとは異なる以上、web3プロジェクトの評価はもっと多角的に行う必要がある。

 web3は黎明期にあります。そういう意味では、非常に大きなチャンスを秘めており、テクノロジーの普及に沿って、実体経済との融合も進んでいくと思います。現時点で存在しない課題といっても、長期的に評価した時に、それがコアな課題と成り代わる可能性も十分考えられるでしょう。

 重要なのは、この不明瞭な世界でも、自らの手を動かし続け、未来を探り当てることだと思います。すでに市場や未来が確立しているものについては先行者が多くいらっしゃいますが、まだ黎明期であるweb3だからこそ、僕たちが手を動かし続けて、未来を解き明かすことが必要だと思います。

大東さん(中央)を支える、起業家の内藤聡氏(左)と小林清剛氏

――今は存在しなくても、遠くない未来には生じる課題だとすれば、その解決はweb3を未来に届ける一歩かもしれませんね。web3と実体経済の結びつきはどのように強化されて行くとお考えでしょうか。

 今後、小売業界のみならず様々な分野において、NFT/トークンを通じて共同所有するような未来になっていくでしょう。もちろん、共同所有にも投資に近いものから、モノやプロダクトにおけるコミュニティを一部所有するなど、幅広い選択肢があり、全てが単一かつフラットになるとは思いません。その利用方法に最適化された選択肢が次々と提示されるはずです

 米国では、ブロックチェーン上で運営される街を作る「CityDAO」が2021年にスタートしました。米ワイオミング州の土地を購入し、DAOに参画したメンバーが街の開発を担う一大プロジェクトです。

 また、「Arkive」という美術品を共同購入するDAOコミュニティは、トークンをまだローンチしていませんが、すでにいくつかの美術品を共同購入し、直近では10億円前後の資金をファンドから集めるなど、注目を浴びています。

筆者注:
​CityDAOは、DAOのメンバーによって街づくりを行うweb3プロジェクト。2021年7月にスタートし、ユーザーは市民権となるNFTをブロックチェーン上で購入することにより、街での居住権を得ることができる。米ワイオミング州では、DAOはLLC(合同会社)として法人格を得ることができる。

 従来のインターネット時代より、ユーザーの声が影響力を増しており、web3と実体経済の融合を加速させています。

 今後、ユーザーはファンの範疇を超えて、共同オーナーやステークホルダーに成り代わる未来がすでに見えています。世界の多数の人々がウォレットを保有し始めれば、そのウォレットを介して、実世界に存在するものとweb3を今まで以上に接続させ、前述のようなプロジェクト単位と個人の間における密接な関係を築いていけます。

――今はweb3にとって「冬の時代」ですが、トップクラスのクリプト系ベンチャーキャピタルがひしめくサンフランシスコに身を置く大東さんは、この環境をどのように観測していますか?

 以前と比べると確かにweb3における投資活動などは落ち着いたと思います。しかし、悲観的になるほどの冷え込みではなく、毎日のように新たなプロダクトが誕生しますし、たくさんの資金調達情報も耳にします。弊社はサンフランシスコに実店舗を構えているので、web3にそこまで理解がない方でも立ち寄っていただき、積極的にDeStoreやweb3に触れることができます。

 むしろ、冬の時代の到来でノイズが減っている今だからこそ、真に意味があるweb3のプロダクトが誕生するのではないかと思います。僕自身も今が世界を変えるベストタイミングだと信じ、ひたすらプロダクトを磨き続けることに専念したいと思います。

――素晴らしい熱意ですね。最後に、大東さんとDeStoreの未来の展望について教えてください。

 DeStoreはまず未来の小売の型となるソフトウェアを実際の小売店舗を運営しながら開発しつつ、ゆくゆくは他の店舗でも応用できるような形に広げていきたいと考えています。オーナーシップを分配するという意味でも、顧客であるステークホルダーをいかにコミュニティへと取り込み、コミュニティファーストな小売店舗を作るかが僕のミッションです。そういった意味でも、店舗運営のみならず、どの店舗でも使えるようなソフトウェアを開発するのが直近の課題です。

 今後は百貨店やブランド向けにDeStoreのソフトウェアを提供し、店舗ごとにユニークなDAOを作れるような仕組みを構築していく予定です。

 小売業界は非常に大きな市場で、2020年代前半のこのベストなタイミングで、将来の小売を定義するチャンスがあるのは、とてもエキサイティングだと思います。DeStoreを用いて、数千ものコミュニティファーストな小売店舗が運営される未来を期待し、これからもサンフランシスコで頑張っていきたいと思います。 

大東樹生(だいとう・いつき)
2000年生まれ、神奈川県出身。 15歳の頃より、日本最初のファッションYouTuberとして活動。 高校卒業直後、起業のためにシリコンバレーへ。 2022年、サンフランシスコにて世界初のDAO運営型店舗のDeStoreをアナウンスし、Y Combinator卒業生限定の投資DAO Orange DAO等より出資を受ける。
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
夏目英男(なつめひでお) 1995年、東京生まれ。両親の仕事の関係で5歳で北京移住。2017年清華大学法学院及び経済管理学院(ダブルディグリー)を卒業。2019年、同大学院公共管理学院(公共政策大学院)卒業後に帰国。日本の政府機関で日本と中国をつなぐ事業に従事する傍ら、中国の若者トレンドやチャイナテックなどについての記事を執筆。現在、日本の独立系ベンチャーキャピタルにてスタートアップへの投資や、投資先の支援業務などを行う。著書に『清華大生が見た最先端社会、中国のリアル』(クロスメディア・パブリッシング)がある。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top