プーチン大統領「5選」へ始動か? エリート層が恐れる「プーチン不在」

執筆者:名越健郎 2022年10月31日
エリア: ヨーロッパ
10月27日、バルダイ会議で“今後10年”を語ったプーチン大統領(ロシア大統領府HPより)
ロシア独立系メディアが伝える5選への動きが注目される。直近のバルダイ会議では今後10年の統治を示唆しており、ウクライナへの干渉を続けることも強調された。政治・社会情勢には緊張感が高まるものの、ロシアのエリートの間ではプーチン体制の不支持よりも混乱を忌避する意識が上回っているとみられる。

 ラトビアに拠点を移したロシアの独立系メディア「メドゥーザ」は10月28日、クレムリンが2024年3月に予定される次回大統領選で、ウラジーミル・プーチン大統領(70)の5選に向けた準備を開始したと報じた。

 大統領任期は6年で、当選すれば、プーチン氏は2030年までの続投が可能。政権担当30年となり、ソビエト、ロシア両連邦を通じて、スターリンを抜き20世紀以降最長在任の指導者となる。

「メドゥーザ」は、クレムリンは大統領選までにウクライナの戦争が終わることを望んでいるとしているが、プーチン政権が続く限り、ウクライナ干渉が継続することになる。欧米との対立も続き、「核の恫喝」やエネルギー危機食糧問題インフレなど世界的な経済危機も長期化しそうだ。

「欧米との戦い」が公約

「メドゥーザ」は、情報筋はまだ選挙戦略の概要しか分からないとしながら、「他の候補者はいない」「対立候補は従来同様、下院に議席を持つ政党代表になる」としており、プーチン氏の当選は確実とみている。

 次回大統領選は2024年3月10日(日)投票とみられる。クレムリンは通常、選挙の1年半前から準備を開始し、選挙参謀を選定、地方工作を行うほか、選挙戦のイデオロギー戦略も策定する。プーチン氏の5選戦略は引き続き、「反西側」の物語を中心に構築され、「偉大なロシアの復活」「欧米との戦い」「多極化世界」がスローガンになるという。

 クレムリンは選挙までにウクライナ侵攻を終わらせることを望んでいるが、どのように勝利宣言し、併合する領域をどうするかなどは全く不明だ、と「メドゥーザ」は伝えている。

 2018年3月の前回大統領選でプーチン氏は76.69%の得票で当選した。「メドゥーザ」によれば、プーチン氏は「人々の支持の結果を見るのが好き」で、9月のウクライナ4州での併合住民投票を上回る圧倒的な支持を集めて当選し、内外に誇示することを望んでいるという。

 一方で、ある政治戦略家は、全土に戒厳令を導入して選挙を延期し、任期を延長するシナリオもあるとみているという。

バルダイ会議で示唆した「あと10年」

 プーチン氏はこの報道前日の10月27日、内外の専門家を集めて行う恒例の「バルダイ会議」に出席し、1時間の演説と2時間半の質疑応答をこなした。発言内容は、続投を念頭に置いたイデオロギー的な「施政方針」が目立った。

 プーチン氏はこの中で、「われわれは歴史の分岐点にいる。この先には第二次世界大戦の終結以来、危険で予測できない最も重要な10年が待っている」と今後10年の統治を意識していることを示唆した。

 また、「ロシアは独自の特色あふれる文明を築いた国であり、国内に社会の強い団結が存在する」と政権基盤が強固であることを強調。「隣国との連携を土台とした大規模な空間のメカニズムをより積極的に指導していく」と旧ソ連圏への影響力拡大を訴えた。

 ロシア・ウクライナ戦争では、「ロシアが今日のウクライナを作ったのであり、ウクライナの国体、主権、領土を保護できる唯一の保証国はロシアだ」とし、ウクライナ干渉を続ける方針を示しながら、外交による解決にも言及した。

 さらに、「西側の制裁によって引き起こされた困難な時期は過ぎ去り、経済の再構築作業に着手した」とし、「われわれには多くの友人がいる。外国の指示で生きることに疲れた人々はロシアの闘いを注目している」と開き直った。

 自らの路線や戦略を正当化し、それをさらに継続する「続投宣言」ともとれる発言だった。

エリートは安定を重視

 筆者らは9月に多くのロシア人識者とオンラインで会見したが、政治学者らはプーチン氏が5選を目指すとの意見が多かった。

 政治評論家のアンドレイ・コレスニコフ氏は、「プーチン体制は安定しており、国民を結集できている。プーチンはあくまで5選を目指し、ウクライナの戦争をやり遂げようとする。後継者の噂はあるが、指名することはない。周辺のエリートも反対すれば、命がないと恐れている。トップを交代させるルールもない。ただし、社会、経済情勢が悪化する中で、ウクライナ以外に何を国民に示せるかが重要になる」と指摘した。

 独立系世論調査機関レバダセンターのレフ・グドコフ前所長は、「国内では政権によるプロパガンダや検閲などの情報統制、反体制派への弾圧が徹底している。現状では、プーチン氏に代わる人物はおらず、国を改善しようとする試みも国内にはない。ただ、ウクライナ侵攻に敗北するなら、プーチン体制は揺らぐだろう」と述べた。

 女性の政治専門家は匿名を条件に、「政権周辺のエリートは将来を見通せる安定を重視し、プーチンが不在になることを極度に恐れている。プーチンが独断で始めたウクライナ侵攻はエリートにはショックだったが、結局は容認し、早く終わればいいと内心思っている。彼らはプーチンに抵抗できない。退陣せず、最後までやってほしいと願っている。世代交代が課題になるが、現時点で後継者はおらず、後継問題を議論するのは意味がない」と語った。

 プーチン氏が22年にわたって築いた体制は強固で、敗戦以外に政権が揺らぐことはないとの見立てが多かった。エリートの間では、有事にはプーチン氏以外の選択肢はないとの総意があるようだ。

国内の反発、反乱にはさらなる弾圧か

 ただし、ロシアの政治・社会情勢は秋に入って緊張してきた。9月11日の統一地方選前後に、地方議員らが連名で大統領弾劾を求める共同書簡を発表した。

 9月初めに北東部ハルキウ州からロシア軍が退却するなど戦況が悪化すると、愛国勢力は国防省の作戦指導を批判し、総動員令の発動を要求。プーチン氏は9月21日、部分的動員令を発表し、右派に擦り寄った。これが若者の反発を呼び、数十万人が出国し、徴兵拒否の動きが広がった。

 10月8日にクリミア半島とロシア本土を結ぶクリミア大橋が爆破されると、ロシア軍は報復措置としてウクライナ各地の民間インフラに大規模なミサイル攻撃を行い、国際的非難を呼んだ。プーチン政権はウクライナ東部・南部の4州に戒厳令を発動し、ロシア全土に3段階に分けて警戒態勢を敷いた。

 ロシアではウクライナ侵攻と並行して、オリガルヒ(新興財閥)やエネルギー企業幹部ら10人以上の怪死、ロシアとドイツを結ぶ海底ガスパイプライン「ノルド・ストリーム」の爆破、ロシア国内の軍事基地などでの相次ぐ爆破といった謎めいた事件が頻発している。

 戦争長期化で、社会に閉塞感が高まり、世相が悪化しているのも事実だ。プーチン政権は反政府勢力の弾圧を強化し、強行突破しようとしている。

パトルシェフ農相が首相?

 クレムリンの内情に詳しいとされる謎の人気ブロガー、「SVR(対外情報庁)将軍」は10月27日、SNS「テレグラム」で、プーチン氏が26日の安保会議で、遅れている議会への年次教書演説を12月に行い、危機管理を強化するため、内閣改造を発表し、新首相と新内閣を議会に提案する方針を示したと書き込んだ。

「SVR将軍」はまた、政権は来年初めに段階的に全国に戒厳令を拡大し、新内閣の下で戒厳体制を敷くとしている。

「SVR将軍」によれば、経済テクノクラートのミハイル・ミスシュチン首相の後任には、強硬派のニコライ・パトルシェフ安保会議書記の長男、ドミトリー・パトルシェフ農業相(45)が有力視される。父は戦火の中で息子が要職に就くことを快く思っていないが、プーチン氏は「春までに熱い局面は終了する」と説得した。しかし、その根拠は示していないという。

 内閣改造が行われれば、右派・愛国勢力から批判を浴びるセルゲイ・ショイグ国防相らの更迭があるかもしれない。中央銀行総裁や連邦保安庁(FSB)長官、内相、財務相らも辞任を望んでいるとの非公式情報もある。

 その場合、新内閣では強硬派が起用され、「戦時内閣」が組織されるかもしれない。

「戦争状態法」と呼ばれるロシアの戒厳令法(2002年制定)の規定では、大統領が憲法に沿って戒厳令を敷けば、発動された地域では、総動員令の発令が可能になる。該当地域では、すべての選挙が中止され、大統領や首長の権限が強化される。

 今後、戦況や内政状況が悪化した場合、プーチン氏は戒厳令を導入し、「戦時大統領」として君臨するかもしれない。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
名越健郎 1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社、外信部、バンコク支局、モスクワ支局、ワシントン支局、外信部長、編集局次長、仙台支社長を歴任。2011年、同社退社。拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学特任教授を経て、2022年から拓殖大学特任教授。著書に、『秘密資金の戦後政党史』(新潮選書)、『ジョークで読む世界ウラ事情』(日経プレミアシリーズ)、『独裁者プーチン』(文春新書)など。
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