独ショルツ首相が向かう「メルケルの来た道」――ドイツの対中戦略に分裂の危機(前篇)

執筆者:熊谷徹 2022年11月17日
エリア: ヨーロッパ
ドイツ政府部内では、中国に対する戦略をどのように変更するかについて、激論が続いている。写真は北京の人民大会堂(筆者撮影)
G7首脳の先陣を切ってショルツ首相が訪中した。習近平国家主席から対ロ牽制の言葉を引き出すなどの成果が謳われたが、マクロン仏大統領の“相乗り”を拒否して独企業社長12人を同行させる姿は「経済ファースト」だったメルケル前首相時代と変わらない。来年1月に公表される予定の、新たな対中戦略の内容が注目される。

 ドイツのオラフ・ショルツ首相は11月4日、中国を訪問して習近平国家主席・李克強首相と会談した。2年前の新型コロナ・パンデミック勃発以来、G7(主要7カ国)加盟国の首脳が訪中したのは初めてだ。フォルクスワーゲン(VW)、BMW、シーメンスなどドイツ企業の社長12人も同行した。

11時間の訪中で二つの「成果」

 中国政府の厳しいコロナ対策のために、首相たちの北京滞在は11時間に限られた。それでもショルツ首相は、二つの「成果」があったと主張する。 

 一つは、ロシア・ウクライナ戦争をめぐる、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領への牽制球だ。ショルツ首相と習主席は、「我々は核兵器の使用に反対する。核による威嚇は無責任かつ危険だという点で、意見が一致した」と述べた。

 ウクライナでは、ロシア軍が劣勢に追い込まれている。プーチン政権は、「ウクライナは『ダーティー・ボム(汚い爆弾)』を準備している」と主張している。ダーティー・ボムとは、通常の爆弾にプルトニウムなどの放射性物質を入れた容器を組み合わせたもの。核分裂反応は起きないものの、爆弾を炸裂させれば、毒性の高い放射性物質が撒き散らされ、地域が汚染される。国際原子力機関(IAEA)はウクライナで査察を行ったが、ロシアの主張を裏付ける証拠は発見できなかった。つまりロシアの主張は偽情報である可能性が強い。だがドイツなどは、「ロシアが偽情報を口実にして、ウクライナでの劣勢を挽回するために戦術核兵器を使用する危険がある」という懸念を強めている。

 ショルツ首相と習主席は、北京での発言でロシアを名指しにすることは避けたものの、プーチン大統領に対して、戦術核兵器の使用を思いとどまるよう釘を刺したのだ。

 これまで中国は、ロシア寄りの姿勢を保ってきた。習主席は、今年2月4日に中国を訪れたプーチン大統領とともに、「両国は無制限のパートナーシップを結ぶ」と宣言した。彼は開戦後も、ロシアのウクライナ侵攻を公式に非難していない。中国は2月25日の国連安全保障理事会でのロシア非難決議でも棄権した。それどころか中国は欧州連合(EU)と米国の対ロシア経済制裁措置を批判しているほか、今年上半期にロシアからの液化天然ガスや原油輸入量を増やすなど、間接的にロシアを支援している。

 その中国の最高指導者が、ロシアの核兵器使用に反対する姿勢を初めて明確に打ち出した。この言質を取ったことは、ショルツ首相にとって一つの成果だ。

 もう一つの成果は、ドイツ政府が中国政府から、外国製コロナワクチンの投与について譲歩を引き出したことだ。今回中国政府は、ドイツのビオンテックと米国のファイザーが共同開発したコロナワクチンを、中国に住む外国人に接種することを初めて許可した。中国では、外国製のコロナワクチンの接種は禁止されている。これまで外国製ワクチンを受けられるのは、中国に住んでいる外交官に限られていた。

 ショルツ首相の訪中団には、ビオンテック社のウール・シャヒーンCEOも加わっていた。同社のワクチンの外国人への投与により、感染時の重症化を抑える効果が確認されれば、将来中国政府は、中国市民への投与を許す可能性もある。そうすれば、厳しい隔離によって中国経済の成長を阻害している「ゼロコロナ政策」にも、変化の兆しが現れるかもしれない。

最大のテーマは経済関係の強化

 今回の訪中における最大のテーマは、独中間の経済関係をいかにして強化するかだった。そのことは、12人もの社長が首相に同行したことにはっきり表われている。

 中国は、2016年以来6年間連続で、ドイツにとって世界で最も重要な貿易相手国だ。連邦統計庁によると、2021年のドイツの対中貿易額(輸出額と輸入額の合計)は2465億ユーロ(34兆5100億円・1ユーロ=140円換算)。ドイツの中国からの輸入額は、過去10年間に約80%、対中輸出額は約60%増加した。

 ドイツの勤労者の内、約100万人分の雇用が中国ビジネスに依存している。特に依存度が高いのが自動車業界だ。欧州最大の自動車メーカー、VWグループが2021年に世界で販売した自動車の内、38%が中国で売られた。同社は中国の33カ所に自動車組み立て工場を持ち、2021年には中国の自動車市場で、10.3%と最大のマーケットシェア(販売台数の比率)を誇った。メルセデス・ベンツグループの中国依存度も37.8%、BMWも33.6%にのぼる。つまりドイツの大手自動車メーカーが世界で売る車のほぼ3台に1台は、中国で売られている。メルセデスベンツの株式の19.7%は、2社の中国企業に握られている。

 ドイツの物づくり産業の中で最も重要な業種の一つである自動車産業は、中国なしには成立し得ないと言っても過言ではない。

敢えて人権問題を強調した理由

 ただしショルツ首相は、貿易関係だけではなく、中国にとって不愉快なテーマにも言及した。

 ショルツ首相は北京での記者会見で、「新疆ウイグル自治区などの人権問題について話すことは、内政干渉ではない。全ての国連加盟国は、人権擁護と少数民族の保護を義務付けられている。このことは中国にもあてはまる」と指摘した。さらに同氏は「人権問題については、ドイツと中国の間に著しい見解の相違がある。新疆ウイグル自治区の問題については、引き続き協議していく」と述べた。さらに首相は、ドイツは「一つの中国」の原則を尊重するが、台湾問題を武力によって解決することには断固反対するという姿勢を打ち出した。彼は記者会見で、「習主席に対し、この点をはっきり伝えた」と強調している。

 これに対し中国側は「両国は見解が一致している点についてのみ話し合い、意見が異なる点については触れないようにするべきだ」という従来の姿勢を繰り返した。

 ショルツ首相が「習主席と人権問題についても話し合った」と明言した理由は、今回の訪中について国内外から批判の声が上がっていたからだ。

 野党キリスト教民主同盟(CDU)のフリードリヒ・メルツ党首は、「習主席が党大会で権力基盤を固めた直後に、ドイツの首相が訪問するというタイミングは最悪だ。中国は、この訪中を『我々の路線が正しいことを西側が認めた』というプロパガンダ(宣伝)の材料に使うだろう」と批判した。

 またドイツの人権擁護団体「脅かされている民族を守るための組織」のハンノ・シェドラー会長は「貿易によって相手国を民主化しようという政策(Wandel durch Handel)は、機能しない。そのことは、シュレーダー政権、メルケル政権の対ロシア政策の失敗から、明らかだ」と述べ、ショルツ政権が中国に対して政経分離政策を続けることについて、警告を発した。さらにシェドラー氏は、「中国に対してはEUが一丸となって対処しないと効果がない。ショルツ首相は、他の欧州諸国と歩調をそろえるべきだ」と批判した。

 当初フランスのエマニュエル・マクロン大統領も、ショルツ首相と一緒に訪中することを希望していたが、ドイツ側は拒否した。

 ドイツの経済紙ハンデルスブラットのブリュッセル特派員モーリッツ・コッホ記者は、ドイツの公共放送局ドイッチュラント・フンクとのインタビューの中で、「ショルツ首相が、マクロン大統領ではなく、12人のドイツ企業の社長たちを引き連れて中国へ行ったのは、誤りだった。彼がマクロン大統領と訪中していたら、欧州の結束を中国に対して示すことができていたはずだが、ショルツ首相はその機会を逸した」と述べている。コッホ記者によると、ブリュッセルの欧州委員会では、「ドイツは国家ではなく、実は産業団体だ」という陰口すら叩かれている。ショルツ首相がEUの連帯よりも、自国企業の繁栄を重視しているという意味だ。

 ショルツ首相の言動、行動からは、「経済ファースト」の方針が透けて見える。ショルツ首相は、訪中直前にドイツの保守系日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)に寄稿して、「近年中国共産党は党大会の決議内容の中で、マルクス・レーニン主義を以前よりも重視する傾向を見せている。このように中国は、急速に変化しつつある。このため中国への一方的な依存を避けるために、他の国からの輸入を増やし、希土など天然資源の調達先を多角化することは重要だ。しかし中国との関係を断ち切ることは、できない」と主張した。中国側はショルツ首相について、前任者のアンゲラ・メルケル氏同様に「人権問題よりも、実務的な経済関係を重視する政治家」という前向きな評価を与えている。メルケル氏は、中国を訪問しても新疆ウイグル自治区などでの人権問題にほとんど言及しなかったので、「実務を重んじる政治家」と絶賛されていた。

中国の資本参加に首相だけ賛成

 今年10月、ショルツ首相の経済重視の姿勢を浮き彫りにする出来事があった。中国の国営船会社・中国遠洋海運集団有限公司(COSCO)は、ハンブルク港の一角にあるコンテナ・ターミナルを運営するドイツ企業HHLAの権益35%の買収を計画した。この国では、重要なインフラに関連する企業にEU域外の企業が資本参加しようとする場合には、原則として政府の審査・承認を得なくてはならない。

 審査の結果、ドイツ外務省、経済気候保護省、連邦情報局など6つの省庁は「港湾という重要なインフラに中国の国営企業を参加させることは、安全保障上の危険が大きい。たとえば中国がこのコンテナ・ターミナルを拠点にして、ハンブルク港を通過する物資についての情報収集を行うかもしれない」として反対した。EU企業の中国依存に警戒を強めている欧州委員会も、買収に批判的だった。しかしショルツ首相の連邦首相府だけはCOSCOの資本参加に賛成し、所有比率を24.9%に下げるという条件で、訪中直前に同社の申請を許可した。24.9%に下げれば、COSCOがHHLAの経営戦略などに関する決定をブロックすることはできないからである。このプロジェクトは、中国のグローバルなインフラ建設事業である「一帯一路」計画の一環だ。中国企業は、すでに欧州の16カ所の港湾施設に資本参加している。

 米国のバイデン政権は、中国について「自国の価値体系の全世界への拡散を目指す唯一の国」として警戒感を強め、この国をライバルと見ている。「中国に関するワシントンの雰囲気は、米ソが対立していた東西冷戦の時代にそっくりだ」と形容する人もいる。

 これに対しショルツ首相は、中国について「パートナーでもあり、ライバルでもある」という言い方をしている。つまり米国とは異なり、中国と対立するだけではなく貿易関係も維持するという姿勢だ。東西冷戦の時に、西ドイツがソ連に対してとった姿勢に似ている。当時西ドイツは、北大西洋条約機構(NATO)の一員としてワルシャワ条約機構軍との対決姿勢を維持する一方で、ソ連からの天然ガスや原油を輸入して代金を払い続けた。このような政経分離政策は、ロシアのウクライナ侵攻が2月24日に始まるまで続いた。メルケル前首相は、「私がロシアとの間でエネルギー貿易を続けた理由は、核保有国ロシアとの対話のチャンネルを常に開いておくためだ」と自分の政策を正当化している。ショルツ首相も、同じ道を歩もうとしているように見える。

対中政策硬化の急先鋒=緑の党

 ただしショルツ政権は決して一枚岩ではない。緑の党のアンナレーナ・ベアボック外務大臣とロベルト・ハーベック経済気候保護大臣は、対ロ政策の失敗に基づいて、中国への経済的な依存を大幅に減らすという方針を打ち出している。

 ドイツ外務省は現在新しい対中戦略を策定しており、来年1月末に公表する予定だ。

 現在外務省で検討されている対中戦略文書の草案は、3つの章から成る。第1章では、ドイツと中国の二国間関係、特に自動車、化学、機械製造の3つの分野でドイツが中国経済に大きく依存している現状が分析される。第2章では、ドイツと欧州が将来中国に対してどう対応するかについての提言が行われる。この章では、ドイツが中国に対して「超えることを許してはならない防衛ライン」をどう設定するかが、重要なテーマとなる。ドイツ企業は、製品や原材料の輸入先を多角化し、EU域内市場を重視することが求められる。第3章は、グローバルな安全保障の分野で中国にいかに対抗するかについての提言が行われる。

 この文書には、「ドイツ企業は今後5年以内に、中国事業の一部または全体を失っても、企業として存続できる態勢を整えること」という厳しい方針が盛り込まれている。台湾有事が起きて、EUが中国に経済制裁措置を実施する場合のための準備だろう。この内容は草案なので、今後変更される可能性もあるが、このような「プランB」の準備が義務付けられた場合、ドイツ企業にとっては、厳しい内容となる。

 ベアボック外務大臣は、今年6月2日の連邦議会での演説の中で、「新たな外交戦略は、中国とこれまで以上に距離を置き、中国経済への依存度を減らすことを目的とする。さらにドイツ企業が、中国での強制労働や人権侵害に関与している下請け企業を使わないように、サプライチェーンも焦点になる」と語っている。

 2021年の連邦議会選挙後に、社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)が公表した連立契約書には、緑の党の筆致が色濃く表れている。

 たとえば3党は、連立契約書の中で台湾と香港、新疆ウイグル自治区を名指しした。連立契約書の中でこれらの地名が取り上げられたのは、初めてだ。3党は、契約書に「我々は、南シナ海・東シナ海の領有権に関する対立が国際法に基づいて処理されるよう働きかける」と明記した。これは中国の他4カ国が領有権を主張しているスプラトリー諸島(南沙諸島)をめぐる対立などを指す。中国は、スプラトリー諸島などを含む、南シナ海南部のいわゆる九段線に囲まれた海域の領有権を主張し、岩礁の一部に建造物を構築している。オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は、2016年7月に、九段線に囲まれた海域に関する中国の領有権の主張について、「国際法に違反する」という判決を下している。

 さらにショルツ政権は「台湾海峡における現状の変更は、平和的な手段に基づき、全ての関係者が同意した時のみ行われるべきだ。EUの対中政策に基づいて、台湾が実務的なレベルで国際機関に加盟することを、ドイツは支持する」と訴えた。さらに「我々は、特に新疆ウイグル自治区における人権侵害をテーマとして取り上げる。香港については『一国・二制度』の原則を回復しなくてはならない」と明記した。

 連立政権の所信表明とも言うべきこの文書の中で、台湾、香港、新疆ウイグル自治区が取り上げられたのは、緑の党の要請に基づく。

ベアボック外相が打ち出す「普遍的価値に基づく外交」

 ベアボック氏は2021年12月1日にドイツの左派系日刊紙ターゲスツァイトゥング(taz)が掲載したインタビューの中で、中国に対する姿勢を歴代の政権よりも硬化させる方針を打ち出した。その基本路線は、「中国との対話を続けるが、厳しさも示す」という両面作戦だ。

 同氏は記者から対中政策について問われて「外交の基本が、対話であることは間違いない。しかし意見の違いや対立点について沈黙する外交は、袋小路に陥る。私は価値に基づく外交を重視する。その基本は、対話と厳しい態度だ。ドイツはこれまで、人権問題など特定のテーマについてあえて沈黙してきた。私に言わせるとそれは、正しい外交政策ではない」と断言した。彼女は名指ししていないが、この言葉は明らかにメルケル前首相に対する批判だ。

 ベアボック氏が言う「普遍的な価値に基づく外交」とは、ドイツ政府とEUが重んじる人権擁護、人種差別の禁止、少数民族や政府批判派への弾圧の禁止、法治主義、三権分立、言論や信教の自由などの価値を基本路線とする外交政策のことだ。

 つまりベアボック氏は、シュレーダー・メルケル両政権が、中国による人権抑圧など「欧州の価値と相容れない政策」を声高に批判しなかったことは、誤りだったと指摘しているのだ。

 同氏は、「ドイツは強権政治を行う政府と、政治制度をめぐる競争状態にある。ルールに基づく国際秩序を守るために、全力を尽くさなくてはならない。つまり国際法、人権、平和を守るのだ」とも語っている。ベアボック氏が「強権政治を行う政府」と呼ぶのは、中国、ロシア、ベラルーシ、イランなどの政府である。

 ドイツなど西欧諸国は、「人権擁護、差別の禁止、言論・思想・信教の自由、法治主義などは、世界のどの国でも通用するべき普遍的な価値だ」と考えている。彼らによると、世界のあらゆる政府はこれらの価値を守らなくてはならない。

 つまりベアボック外相によると、将来ドイツは、「貿易関係が重要だから、相手国の国際法違反や人権抑圧は大目に見よう」という態度をとってはならない。将来ドイツが貿易や投資の対象とする国は、EUと価値を共有する国に限られる。現在ドイツが価値を共有するパートナーとして重視しているのは、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドなどだ。

 これに対し中国は、「EUが重視している人権擁護などの価値は普遍的ではなく、全ての国に適用できない。中国には中国独自の価値がある。このため西欧諸国が、中国に人権擁護や言論の自由などの価値を押しつけようとすることは、内政干渉であり、受け入れられない」という姿勢を取っている。

 中国は国内総生産(GDP)で世界第2位だが、国民1人あたりのGDPでは、はるかに低い位置にある。中国は「共産党の強力な指導の下に、まず貧富の差を減らして国を強くすることが最優先であり、人権擁護や少数民族の差別禁止などの価値の遵守は後回しになる」と考えている。つまり中国とドイツの意見は、「世界のどの国にも共通する普遍的な価値はあるか否か」という点で、根本的に食い違っている。

 ベアボック氏は、tazのインタビューの中で、ドイツにとって中国が世界で最も重要な貿易相手国であることにも触れ、「我々は、自分たちを過小評価するべきではない。EUは世界最大の経済圏だ。したがって中国は欧州との貿易に多大な関心を持っている」と述べ、欧州の経済的な重要性を、対中関係における梃子として利用するべきだと主張する。

 彼女は「新疆ウイグル自治区では、強制労働が日常茶飯事になっている。こうした地区で作られた製品の欧州への輸出を禁止されたら、輸出大国・中国にとっては深刻な問題になる。重要なのは、ドイツが一国でそうした政策を取るのではなく、27のEU加盟国が全て同じ政策を取ることだ。EUは、対中政策で足並みを揃えなくてはならない」と語った。

 なおFDPも人権問題について中国と話し合うべきだという立場をとっているが、緑の党ほどにはこの点を強調していない。その理由は、FDPの支持基盤が企業経営者であるためだ。この国の経済界は、人権問題をめぐる議論が中国事業に悪影響を及ぼすことについて危惧を抱いている。

 次回は、ドイツの製造業界と政府の間で、対中政策をめぐる不協和音が強まっている現状について、お伝えする。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
熊谷徹(くまがいとおる) 1959(昭和34)年東京都生まれ。ドイツ在住。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン特派員を経て1990年、フリーに。以来ドイツから欧州の政治、経済、安全保障問題を中心に取材を行う。『イスラエルがすごい マネーを呼ぶイノベーション大国』(新潮新書)、『ドイツ人はなぜ年290万円でも生活が「豊か」なのか』(青春出版社)など著書多数。近著に『欧州分裂クライシス ポピュリズム革命はどこへ向かうか 』(NHK出版新書)、『パンデミックが露わにした「国のかたち」 欧州コロナ150日間の攻防』 (NHK出版新書)、『ドイツ人はなぜ、毎日出社しなくても世界一成果を出せるのか 』(SB新書)がある。
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