欧州が脱ロシアから追求するエネルギーの「戦略的選択」(上)――「武器化」をめぐるロシアとの攻防

執筆者:鶴岡路人 2022年12月5日
エリア: ヨーロッパ
2022年11月24日、ベルギーのブリュッセルで開催されたEUの臨時エネルギー相理事会で話し合うチェコのヨゼフ・スィーケラ産業貿易相(左)とベルギーのティンネ・ファン・デル・ストラーテン・エネルギー相(右)(C)EPA=時事
エネルギー供給における欧州の対露依存は、ロシアが欧州への輸出収入を欲していることの裏返しでもあった。この双務的なあり方がロシア・ウクライナ戦争で崩壊した後、中長期的に立ち現れる新たな構図はどのようなもになるのだろうか。前編では、対露制裁とロシアによる「エネルギー武器化」が衝突した開戦後の経緯を検証する。(下)はこちらからお読みになれます

 ロシアによるウクライナ侵攻が、ロシア、ウクライナ両国を超えて最も大きな影響を及ぼしているのはエネルギーの分野だろう。もっとも、国際的なエネルギー価格が戦争以前から上昇基調だったことは事実であるし、原油や天然ガスの市場価格は、需給バランスとともに世界経済の景気観測などに大きく規定されるとも指摘されている。その観点で、2022年2月の開戦以降のエネルギー価格高騰の原因をすべてウクライナ侵攻に帰するわけにはいかない。それでも、特に欧州に関する限り、ロシア・ウクライナ戦争がエネルギー危機を深刻化させている最大の原因であることは明白だ。

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執筆者プロフィール
鶴岡路人(つるおかみちと) 慶應義塾大学総合政策学部准教授、戦略構想センター・副センター長 1975年東京生まれ。専門は現代欧州政治、国際安全保障など。慶應義塾大学法学部卒業後、同大学院法学研究科、米ジョージタウン大学を経て、英ロンドン大学キングス・カレッジで博士号取得(PhD in War Studies)。在ベルギー日本大使館専門調査員(NATO担当)、米ジャーマン・マーシャル基金(GMF)研究員、防衛省防衛研究所主任研究官、防衛省防衛政策局国際政策課部員、英王立防衛・安全保障研究所(RUSI)訪問研究員などを歴任。著書に『EU離脱――イギリスとヨーロッパの地殻変動』(ちくま新書、2020年)、『欧州戦争としてのウクライナ侵攻』(新潮選書、2023年)など。
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