台湾有事「巻き込まれ防止論」という日本の限界(下)――FOIPを補完する「第一列島線防衛構想」

執筆者:加藤洋一 2023年3月15日
エリア: アジア
台湾の「残存性」「強靭性」を高める支援も必要だ[対空砲を配備する台湾軍兵士=2022年8月18日、台湾東部・花蓮県](C)EPA=時事
台湾の民衆は自衛能力に疑問を持っている。まず米国と日本には、有事になっても見捨てないという「安心」を台湾に与えることが必要になる。そして中国の侵攻を抑止できなかった場合に備えて、台湾の「残存性」「強靭性」を高める支援をすることだ。こうした対応の先には、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想に軍事的要素を補完する、「第一列島線防衛構想」と呼ぶべき新たな安全保障ビジョンを示すことが重要な課題になるだろう。 (上)はこちらからお読みになれます

考えるべき “What if?”(承前)

 台湾が中国に併合された時に米国がどう対応するかは、分からない。米政府内には、日本への前方展開兵力を増強するという見方がある一方で、逆に、ハワイ-グアムのラインまで撤退する可能性も否定はできないだろう。その時の米国の政権次第という側面もある。最悪の場合、日本は、第一列島線を越えて西太平洋に拡大する中国の影響圏の中に飲み込まれてしまい、「赤い海に浮かぶ民主主義の孤島」となりかねない。もし、米国に頼らずに中国の脅威に対抗しようとすれば、防衛予算は対国民総生産(GDP)比2 %どころでは済まないだろう。核武装論も当然、勢いを増す。

 そのように考えていけば、日本が追求すべき戦略目標は、中台間の軍事紛争の抑止、阻止にとどまらず、中国による台湾の「併合」の阻止としなければならないことが分かる。

 もちろん台湾が自ら進んで大陸との統一を選択するのであれば、日本としてそれを阻止することはできない。ただ、台湾の民衆が、中国の圧力を受けて、事実上の独立という現状の維持を諦めてしまうような事態は防止することができるし、しなければならない。

 ブリンケン米国務長官は昨年10月、中国がこれまでよりずっと早いスケジュールで台湾統一を実現しようと決意していると述べて注目を集めた際、次のようにも語っている。

もし平和的手段でうまくいかなければ、強制的手段をとるだろう。さらにおそらく、強制的手段がうまくいかなければ、目的達成のために軍事的手段に訴えるかも知れない。

 3段階エスカレーション論だ。

 少なくとも、台湾で今の民進党政権が続く限り、「平和的手段」での統一に応じることは考えられない。ありうるのは いろいろな強制的手段、あるいは軍事力を使った「強制的統一」、「併合」だ。

日本が取りうる「方法と手段」

 それを阻止するために、日本が取りうる「方法と手段」は次の3 つだ。

 まず、米国や日本は、台湾を見捨てないという安心(assurance)を与えることだ。 最近の台湾の世論調査では、「中国が明日、台湾に対して戦争を仕掛けたら、どちらが勝つと思うか?」という質問に……

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
加藤洋一(かとうよういち) 早稲田大学アジア太平洋研究センター特別センター員、米戦略国際問題研究所(CSIS)非常勤研究員。 1956年東京都生まれ。東京外国語大学卒業、米国タフツ大学フレッチャー・スクール修士課程修了。2015年まで朝日新聞記者。この間、CSIS、米国防大学、北京大学で客員研究員。2021年1月から2年間、台湾国防部傘下の國防安全研究院で客員研究員。その間の論文に、”How should Taiwan, Japan, and the United States cooperate better on defense of Taiwan?” (The Brookings Institution)。共著に『現代日本の地政学 – 13のリスクと地経学の時代』がある。
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