外交的な動きには、いろいろと目くらましもあるし脚色もある。そういうものをそぎ落としてしっかりと見ていかないと、本当の動きを見失う。今回のアントニー・ブリンケン米国務長官の訪中も、そういう視点で眺めてみると米中関係の現状が分かってくる。
今回、米側が熱心にブリンケン訪中を実現しようとしたり、訪中後も中国に対する角のある発言を避けたりしたためか、米側の対中姿勢の変化を云々する向きも一部ある。だが米国の対中政策の基本は不変だ。米側の対中姿勢の明確化は、昨年11月のバイデン・習近平会談において確認されており、今回はそこで合意に達した米中の了解(それぞれの基本政策は堅持しつつ対話を強化し米中関係をしっかり管理する)の延長線上にある。
中国も対話再開を欲していた
中国側の発表では、ブリンケンは、昨年11月にジョー・バイデン大統領が伝えたこと、つまり「新冷戦」を求めず、中国の国家制度の変更を求めず、同盟関係の強化を通じて中国に対抗せず、「台湾独立」を支持せず、中国と衝突する気はなく、中国との高いレベルの交流を望み、意思疎通を良くし、責任を持って不一致をコントロールし、対話と交流、協力を求める、という約束を遵守すると言ったという。ワシントンから聞こえてくる対中強硬発言とは距離があるように見えるが、これが昨年11月の大統領の発言内容であり、今回の訪中は、このラインに沿って進んだ。
米国が対話再開に熱心であったのは、昨年11月の首脳合意を前に進めるために予定されていた本年2月のブリンケン訪中が、中国気球問題ですっ飛んでしまったからだ。中国の気球が安全保障上、重大な脅威となるのであればアラスカ上空で撃墜しておけば良かった。それもせずに、中国式なので分かりにくいとはいえ、中国が一応お詫びをした直後に、世界が見守る中でこれ見よがしに撃ち落としてしまった。中国のメンツは丸つぶれとなり、米国とは一切、口も利かないという姿勢をとらざるを得なくなった。
その結果、米国が再開を熱望している形にしないと、中国は国内的に動けなくなってしまった。『2035年の中国』(新潮新書)において指摘したように、中国は米国との分断と対立を避けなければならない内外情勢にある。中国も間違いなく、米中対話の再開を欲していたのだ。
そういうことで戻るべくして元に戻ったということだが、今回、それまで曖昧だった米国の政策が、いくつかの点で、はっきりと見えてきた。
「6つの保証」が表に出ることによる不安定化
1つは、デカップリングを明確に否定してデリスキングに軌道修正し、その方針を中国に対して表明した点だ。この方針はG7広島サミットでも確認された共通ポジションでもあるが、6月13日のジャネット・イエレン財務長官の議会証言において示された、対中経済関係に関するバイデン政権の基本的立場の再確認でもあった。つまり米国は中国との経済的分断はせず、経済関係を発展させつつ、米国の安全保障や経済の強靱性に対する中国のリスクを減らすという方針であることを、より整理された形で打ち出した。
2つ目は、台湾問題についての米国の立場の再確認だ。今回ブリンケンは、米国の「1つの中国」政策に変更はなく、台湾の独立を支持せず、現状変更を試みる中台双方の一方的行為に反対し、両岸間の相違の平和的解決を期待し、台湾関係法に基づき台湾の自衛能力の保持を確実なものとする義務を果たす、と言っている。これだけ聞くとこれまで慣れ親しんだ米国の台湾政策の確認のように聞こえる。
しかし、ブリンケンは、米国の台湾政策は台湾関係法および米中の3つの共同声明だけではなく、台湾に対する「6つの保証」[1]に導かれる、と述べている。……
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