「死んだ人を悪く言うもんじゃないと母から言われた」キッシンジャー逝く
Foresight World Watcher's 11Tips
今週もお疲れ様でした。11月29日に逝去したヘンリー・キッシンジャー元米国務長官の追悼記事を海外メディアで読んでみると、その業績に向けられる言葉がしばしば酷く辛辣なことに驚きます。冷戦期から現代に続く国際秩序に大きな影響を与え、ある意味では今の国際社会の困難の出発点にいる人物ゆえに毀誉褒貶あるのは当然ながら、特に比較的若手の研究者からの評価が手厳しいように思います。それは国益の追求と軍事力を軸に展開されるレアルポリティークが、SNSなどにより国境を超えて広がる世論や影響工作など、その射程外にはみ出しがちな新たな要素に揺さぶられていることとパラレルにも思えて興味深いところです。
キッシンジャーが東アジアの国際秩序形成においてもメインプレイヤーだったことは贅言を要しないかもしれません。とはいえ、細谷雄一・慶應大学教授が2021年の日米首脳会談を受けて日経COMEMOにお書きになった「キッシンジャーが創った時代の黄昏」は“日本にとってのキッシンジャー”を理解するうえで非常に参考になると思います。
また、ロシア・ウクライナ戦争の行方をめぐって論争を呼んだキッシンジャー氏の発言について本誌関連記事を挙げておきます。
それではフォーサイト編集部が週末に熟読したい記事、皆様もよろしければご一緒に。
Hero and Villain: Why Henry Kissinger Was Such an Ambivalent Figure for Jews and Israelis【Ofer Aderet、Nettanel Slyomovics、JTA、Associated Press/Haaretz/11月30日】
'My Mother Told Me Not to Speak Ill of the Dead': Political Experts on Henry Kissinger's Legacy【Arash Azizi, Lien-Hang T. Nguyenなど10名/POLITICO/11月30日付】
ヘンリー・キッシンジャーが亡くなった。100歳の生涯についてはすでに多くが語られ、知られてきたが、今回あらためて各国のメディアが彼の業績への毀誉褒貶を新たに積み上げている。そのいくつかを通じて“外交の巨人”の、特に日本ではあまり触れられない側面について紹介してみよう(以下、記事・論考は、特記のない限り11月30日付)。
「ナチス・ドイツを逃れた難民の子だったキッシンジャーは、20世紀における最も影響力のあるユダヤ人のひとりとなった。[中略]彼は賛否両論の遺産を残した、米国人としてもユダヤ人としても」
このようにリード(前文)でうたったのは、イスラエルの「ハアレツ」紙。同誌記者2名と同国の通信社JTAおよび米AP通信がクレジットされた訃報の見出しは「ヒーローと悪役 ヘンリー・キッシンジャーはなぜユダヤ人・イスラエル人にとってここまでアンビバレントな存在だったのか」と刺激的だ。
キッシンジャーの両面性、特に「悪役」としての顔がよく見えてくるのは、米国の政治専門オンラインメディア「ポリティコ」が研究者10人の評を集めた記事「『死んだ人を悪く言うもんじゃないと母から言われた』ヘンリー・キッシンジャーの業績について政治専門家が語る」だ。……
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