【前回まで】財務省主計局の周防は、新設の防衛力強化資金対策室への異動を命じられた。そこには、かつて江島総理の下で、歳出半減に挑んだ“チームOZ”の面々が集まっていた。防衛財源の確保を説く南郷委員長の熱弁を、防衛大臣の都倉は胸に刻んだ。自分も国民に直接お願いすると語る都倉の姿に、暁光新聞の草刈は「何かある」と感じていた。
Episode6 一世一代
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控え室で樋口と話し込んでいる都倉大臣を、磯部は少し離れた席から見つめていた。
護衛艦「いずも」で会った時、まさかこんな形で共働するとは夢にも思っていなかった。
北京での大胆な行動に加え、帰国後のバッシングにも耐えたのは、見上げたものだと強い精神力に感動し、こういう人に総理になって欲しいと思った。
しかも、保守党を除名処分となったのに、大逆転で防衛大臣になるとは……。
永田町の一寸先は闇――という格言が、久々に脳裏に浮かんだ。
メディアでは、この「異常人事」について、様々な憶測記事が乱れ飛んでいるが、本人は一向に気にした様子もない。
さらに、けっして歓迎されたわけではない防衛省での態度も立派だった。
キャリア的に任官が厳しい樋口梓二佐を秘書官に、という希望が出た時は、事務次官と大臣官房長が頭を抱えた。だが、そこは樋口の機転で、磯部に秘書官を打診し、自分はその補佐となるという、これまた異例の形で、落ち着かせた。
磯部としては、来年度以降の防衛費増額のための財源確保を、周防が異動した財務省の大臣官房総合政策課防衛力強化資金対策室(防強対)と連携して進めようと思っていただけに、大臣のお守り役は不服だった。
しかし都倉大臣に「私の最大のミッションも防衛費の精査と財源確保を国民に訴えることだから、磯部さんには先頭に立って頑張って欲しい」と説得されてしまった。
それから約3ヵ月――、都倉大臣は「公約」通り、防衛費の無駄の徹底チェックを、磯部に託した。実質的な秘書官としての業務は、樋口に命じ、磯部は補佐官的な動きをし、内局、陸海空の各幕僚監部の予算の無駄を洗い出した。
その結果、3000億円を超える「無駄」が抽出された。
既に来年度予算審議は佳境を迎えていたため、その無駄の削除は、再来年度に勘案すると決め、まもなく調査結果を発表する。
その一方で都倉は、全国を行脚し、日本の防衛力強化の理由を国民に、懇切丁寧に説明する懇話会を毎週末続けた。
本来であれば、国会議員は「金帰火来」[きんきからい]と呼ばれる行動を繰り返す。すなわち金曜日に選挙区に戻り、週末から月曜日にかけて地元で政治活動を行い、火曜日の朝に東京に戻るのが、慣例だった。
都倉は、それを一切行わず、週末は最低でも5ヵ所で、懇話会を行っている。
こんなことができるのは、彼女が極めて選挙に強いからだ。
「私は、既に保守党から捨てられた身だから、次は党から刺客を立てられ、バッジを外すかも知れません。
ならば、議員でいる間に、国民に日本の安全保障を理解してもらうために、全身全霊で尽くします」
と言い続け、それを実行していた。
彼女にとって重要なのは、党の方針ではなく、日本の安全保障の充実と国民からの理解を得ることだ。そのためには、今日のように野党から提案された法案についても、積極的に支持表明をする。
彼女の迫力のせいなのか。既に、総理の言うことすら聞く耳を持たない都倉に呆れ果て、誰も咎めなくなっていた。……
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