ロシア国防省“大粛清”の背後に「プリゴジン名誉回復」

執筆者:名越健郎 2024年6月7日
エリア: ヨーロッパ その他

国防省高官らに対する汚職捜査については、ショイグ色の一掃を狙った粛清の可能性が囁かれる[クレムリンで軍需産業の振興に関する会議に出席したショイグ安保会議書記](C)AFP=時事

4月に「ショイグの金庫番」といわれたイワノフ前国防次官が収賄容疑で逮捕されたことを皮切りに、ロシア国防省ではショイグ前国防相に近い高官が次々と失脚している。「年内に数十から数百人が逮捕される可能性がある」と、大規模な軍粛清の始まりを示唆する報道もある。ワグネルの乱から1年を経て、故プリゴジン氏の“遺言”どおりにショイグ派の力が削がれ、代わりにミシュスチン首相やベロウソフ国防相らテクノクラートの影響力が増していると考えられる。

 ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者で、昨年8月に謎の航空機事故で死亡した故エフゲニー・プリゴジン氏の銅像除幕式が、誕生日に当たる6月1日、サンクトペテルブルクの墓地で行われ、ワグネルの兵士や市民らが献花した。

 現地メディアによれば、支持者やワグネル部隊のイニシアチブで建立が決まり、工費は10万ドル。プリゴジン氏は愛国勢力やロシア軍兵士らの間で依然人気が高く、一部の右派ブロガーは今も同氏を称えており、一定の名誉回復を思わせる。

 一方で、5期目に入ったウラジーミル・プーチン大統領は5月12日、プリゴジン氏が罵倒したセルゲイ・ショイグ国防相を解任し、安全保障会議書記に異動させた。国防省や軍では、ショイグ派と目される人脈の逮捕や更迭が相次ぎ、プリゴジン氏と親しかった人物の台頭がみられる。「プリゴジン復活」が権力構造の変化をもたらしかねない。

生前はベロウソフ国防相らと親交

 英国にあるシンクタンク、「ドシエ・センター」(5月21日)は、アンドレイ・ベロウソフ新国防相がプリゴジン氏と生前親しく、よく会って意見を交換していたと報じた。

 それによると、二人は会うと抱擁してファーストネームで呼び合った。プリゴジン氏が要望や提案を伝え、大統領補佐官、第一副首相を務めたベロウソフ氏がそれを文書にまとめ、大統領に報告していたという。

この記事だけをYahoo!ニュースで読む>>
カテゴリ: 政治
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
名越健郎(なごしけんろう) 拓殖大学海外事情研究所客員教授。1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社、外信部、バンコク支局、モスクワ支局、ワシントン支局、外信部長、編集局次長、仙台支社長を歴任。2011年、同社退社。拓殖大学海外事情研究所客員教授。国際教養大学特任教授、拓殖大学特任教授を経て、2024年から現職。著書に、『秘密資金の戦後政党史』(新潮選書)、『ジョークで読む世界ウラ事情』(日経プレミアシリーズ)、『独裁者プーチン』(文春新書)、『ゾルゲ事件 80年目の真実』(文春新書)など。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top