Weekly北朝鮮『労働新聞』 (72)

上半期の経済は「全面的高潮」と総括、「金正恩バッジ」も初登場(2024年6月30日~7月6日)

執筆者:礒﨑敦仁 2024年7月8日
タグ: 北朝鮮 金正恩
エリア: アジア
拡大総会では組織問題(人事)を含む5つの議題が討議された(『労働新聞』HPより)
昨年末以来となる党中央委員会拡大総会が開催され、今年上半期の政策執行状況を総括した。経済は「全面的高潮」とされたものの、軍事や外交については具体的な言及がなかった。今回の拡大会議を報じる記事の中で初めて金正恩の肖像が描かれたバッジ「肖像徽章」が確認され、偶像化の加速が窺える。今春に行われるはずだった最高人民会議代議員の改選が延期されていることについては、何ら説明がない状況が続いている。【『労働新聞』注目記事を毎週解読】

 6月28日から7月1日、朝鮮労働党中央委員会第8期第10回全員会議(総会)拡大会議が開催された。その概要については、7月2日付が全8面のうち5ページを使ってまとめて報じた。司会を担った金正恩(キム・ジョンウン)総書記は、「毎年年末の全員会議で採択された決定執行のための中間総括会議として6月に全員会議を招集している事業体系」が有益だと自己評価した。全員会議の定期的な開催自体に意義が付与されていると言える。会期中にはこれまで通り分科協議会と政治局会議も開催された。

 議題は、①2024年度の主要な党及び国家の政策の執行状況の中間総括と対策について、②幹部の事業方法と作風を改善することについて、③重要部門の事業規律を強化することについて、④司法制度の強化発展のためのいくつかの問題について、⑤組織問題(人事)の5つであった。

 会議の中核である第1議題では、経済政策の遂行において生じた「一連の欠点と弊害が資料にもとづいて報告された」。金正恩は今年上半期の経済について「全面的高潮」が起こっていると評価しつつも、「偏向的問題」「並大抵ならぬ主観的・客観的要因」など克服すべき課題を提示させて改善策を探らせた。このような手法は近年一貫しているが、具体的な問題点については公表されなかった。

 金正恩は「建国以来初の壮大な地方発展計画」が本格的な施行段階に入ったことを上半期の成果として挙げ、「地方発展20×10政策」により年末には20の市、郡で生産拠点が竣工すると予告した。また、金属、化学、電力をはじめとする重要工業部門が大きな跛行なしに完遂したとされた。農業についても小麦、大麦の収穫高が昨年を上回り、田植えが適期に完了するなど現段階では「良好」だとされたが、全体としてトーンは抑え気味である。

 人事面では、朝鮮社会主義女性同盟中央委員会委員長だった金正順(キム・ジョンスン)が党中央委員会勤労団体部長に就任した。金正恩政権下で女性の党部長登用は珍しい。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
礒﨑敦仁(いそざきあつひと) 慶應義塾大学教授。専門は北朝鮮政治。1975年生まれ。慶應義塾大学商学部中退。韓国・ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省第三国際情報官室専門分析員、警察大学校専門講師、米国・ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロー・ウィルソンセンター客員研究員など歴任。著書に『北朝鮮と観光』(毎日新聞出版)、共著に『最新版北朝鮮入門』(東洋経済新報社)など。
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