高まる原子力への期待と燃料サイクルにおける課題

執筆者:小山堅 2024年8月16日
タグ: 原発 脱炭素
エネルギー安全保障と脱炭素化の両立には原子力の活用が重要との認識が広がっている[電源開発(Jパワー)が青森県で建設中の大間原発の原子炉建屋=2023年3月9日](C)時事
AIなどによる電力需要急増と脱炭素化への対応を両立させるには原子力の有効活用が欠かせない。世界で原子力への期待が高まる中、燃料サイクルにおけるロシア依存問題への対応も重要課題となっている。ロシア産の濃縮ウランを輸入している米国は、経済安全保障強化の観点から、中長期的な「脱ロシア依存」を目指す取り組みを始めた。日本でもバックエンド対策の取組み強化が避けられない課題となる。

 エネルギー安全保障の強化と脱炭素化の推進の両立を図るエネルギー転換を進めていく上で、原子力発電の役割に対して世界的な関心が高まっている。それに加えて、生成AI(人工知能)などの利用拡大に伴う新たな情報革命の進行で、安定的なゼロエミッション電源へのニーズが急速に高まる兆しも表れており、その点でも原子力への関心が高まる状況となっている。

 ウクライナ危機は、国際エネルギー価格の高騰と供給不安の深刻化を生み出し、エネルギー安全保障の重要性を世界に改めて認識させる契機となった。それ以前は、世界のエネルギー問題において最も重要な課題は脱炭素化であり、如何にカーボンニュートラルを実現するか、という問題に関心は集中していた。

 しかし、日々の暮らしや経済・産業活動に不可欠なエネルギーの価格が高騰し、供給不安が深刻化して状況は大きく変わった。エネルギーの安定的で手頃な(アフォーダブルな)価格での確保、すなわちエネルギー安全保障が一気に最重要の課題として認識されるようになったのである。ウクライナ危機によってエネルギー情勢が大揺れとなった2022年、特に危機が深刻であった欧州では、二酸化炭素(CO2)排出が増加することを覚悟してでも、石炭火力の焚き増しなどでエネルギー安定供給を図る取組みも進められた。危機に瀕して、エネルギー安全保障が脱炭素化より優先された一面として見ることもできる。

AIの利用拡大を支える安定的なゼロエミッション電源

 ただし、これはあくまで短期的な対策であり、有事・危機対応であるといえる。脱炭素化への取組みの重要性は不変であり、そのため、中長期的にはエネルギー安全保障と脱炭素化の両立を新たなエネルギー情勢の下で追求していくことが求められるようになっている。その象徴ともいえる取組みが、EU(欧州連合)による「REPowerEU計画」であり、ここでは、ロシア産の化石燃料からの脱却(によるエネルギー安全保障強化)を通して脱炭素化を推進する、という戦略が実施されている。エネルギー安全保障と脱炭素化の両立は、「政治的に正しい」政策であり、欧州だけでなく、日米を始め世界の主要国が追求する流れとなってきた。

 その追求に当たっては、省エネや再エネの推進、水素などのイノベーション促進など多様なオプションが用いられることになっているが、その中の一つとして、原子力の役割に世界的な関心が集まるようになった。ゼロエミッションの安定電源であり、燃料を原子炉へ装荷すると年単位で長期間使用できる「備蓄効果」などが期待されることから準国産エネルギーと目される原子力は、まさにエネルギー安全保障と脱炭素化の両立に極めて有用なエネルギーと考えられるようになったからである。

 その結果、フランスや英国などでは、原子力発電所炉の新設計画が発表され、その具体化が進められようとしている。

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執筆者プロフィール
小山堅(こやまけん) 日本エネルギー経済研究所専務理事・首席研究員。早稲田大学大学院経済学修士修了後、1986年日本エネルギー経済研究所入所、英ダンディ大学にて博士号取得。研究分野は国際石油・エネルギー情勢の分析、アジア・太平洋地域のエネルギー市場・政策動向の分析、エネルギー安全保障問題。政府のエネルギー関連審議会委員などを歴任。2013年から東京大公共政策大学院客員教授。2017年から東京工業大学科学技術創成研究院特任教授。主な著書に『中東とISの地政学 イスラーム、アメリカ、ロシアから読む21世紀』(共著、朝日新聞出版)、『国際エネルギー情勢と日本』(共著、エネルギーフォーラム新書)など。
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