
今月27日投開票の衆議院選挙はいよいよ後半戦を迎えている。
筆者は情報交換を兼ね、長年交流のある自民党関係者に現場の様子を聞いたのだが、その人物は今回の選挙には気になる点があると複雑な表情で語った。
「とにかく有権者の反応が薄い。選挙カーで地元を回っても手を振ってくれる数が少ないし、反応がね。といって相手候補(野党)側へのエールに熱気があるわけでもないのだが、多くの有権者は政治に興味を失ってしまったのだろうか……」
確かに今回の選挙戦を観察していると政治に対しての熱量を感じさせない。それはなぜか?
公示直前まで「とにかく女性か若い候補を」
石破総理「結果として、相当程度の非公認が生ずることとなる」(10月6日)
石破茂総理は党総裁としてパーティー券の収入を政治資金収支報告書に記載しなかった議員らの選挙での扱いを公表した。西村康稔元経済産業大臣、萩生田光一元自民党政調会長、下村博文元文部科学大臣ら旧安倍派幹部らを中心に12人を非公認。この他の不記載のいわゆる“裏金議員”については、公認はしても比例での重複立候補を認めないという決定を下した。
つまり小選挙区で負けたら議員バッジは諦めろということだ。
この決定に公認を剥奪され、または比例の重複が認められなかった議員らからは怨嗟の声が上がった。
ベテラン議員「こんなにひどい扱いを受けたことはかつて無かった。憤りを感じる」
中堅議員「とにかく小選挙区で勝ち上がっていくしかない」
確かに彼らにとっては厳しい措置であり、石破としても一定のケジメをつけた格好にはなったのだが、決定までのプロセスを見ていくとかなりその姿勢にブレがあったと言わざるを得ない。石破を始め自民党執行部は当初、不記載の議員については地元の都道府県連と協議の上で原則公認する方向に傾いていた。
こうした動きを嗅ぎつけた朝日新聞が10月3日夜に「自民、『裏金議員』原則公認へ 衆院選で比例重複も容認」と速報し、他のメディアもほぼ同様のニュースを報じた。「公認差し替え等の調整する時間が無い」などと関係者は理由を説明した。こうした自民党の動きは世論の怒りを買うと見た野党側は歓喜した。
野党幹部「裏金議員公認で重複も容認となれば、すごい逆風が自民に吹くぞ」
選挙向けの状勢調査を毎週のように行っていた自民党も流石にこの決定はまずいと判断したのか、石破は森山裕幹事長らと10月の5日(土)、6日(日)と連日党本部で対応を協議した。こうした動きと時期を同じくして、自民党幹部が比例の候補者探しをしているという話が飛び交った。もちろん15日の公示まで10日を切る中で候補者選定が佳境を迎えているのは想像に難くないのだが、筆者が耳にした話ではある党幹部は「とにかく女性候補か若い候補、できるだけ手垢のついていない人はいないだろうか」という話を周囲にこぼしていると言うことだった。つまり単独比例で有権者に受け入れられる候補を多く擁立したいという意図が窺えるのだが、こういった選定作業は旧安倍派の“裏金議員”の公認と重複を認めない、つまり“安倍派切り”の作業とリンクした動きだったのだ。
野党共闘の失敗に助けられる自民党
石破としては自分のリーダーシップで一定のケジメをつけたというつもりだろうが、対応にブレが見られた石破は、必ずしも世論の支持を得られていない。そして15日の総選挙公示直後、自民党にとって衝撃的な数字が飛び交うことになった。
自民党議員「かなり厳しい数字が各社の状勢でも出ているみたいですね。厳しい選挙になりますね」
序盤の状勢調査として多くのメディアは、自民党が選挙前の勢力である247議席を減らして単独過半数の233議席を獲得できない可能性があると見通しを示した。
もしも本当に単独過半数割れとなれば野党に転落した15年前の2009年以来ということになる。現有議席から20以上減らし220台半ばまで落ち込むという見方もある。自民党にとっては深刻な事態と言える。
しかし、筆者は「この程度の議席減で収まるのか」という感想を禁じ得ない。

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