筆者は、本年このサイトにおいて4回にわたり米国大統領選挙に関する論考を発表してきた1。本稿では現地時間11月5日に行われた本選の結果を踏まえ、今回の選挙の取りあえずの総括を試みたい。なお、現時点では、投票データの詳細が判明しておらず、直感的な分析にならざるを得ないことはあらかじめお断りしておきたい。また、第2次トランプ政権の展望については、機会があれば稿を改めて議論することしたい。
1.「圧勝」か、「接戦」か?
まず、選挙結果自体については、歴史的接戦との事前の予想にもかかわらず、案に相違して選挙当日の深更には、ドナルド・トランプ前大統領の当選が早々と確定した。このため今回の選挙はトランプの「圧勝」だったという見方が多い。
しかし、激戦州の結果を仔細に見ると、いわゆる「青い壁」を構成するウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニア3州の得票率の差は概ね2%ポイント以内、統計上の「誤差」の範囲であることを考えると、「圧勝」と言い切るには若干の躊躇がある。仮にカマラ・ハリス副大統領がこの3州(及びネブラスカ州の第2選挙区)を制していれば、当選に必要な270名の選挙人を確保していた。選挙の結果が、全米50州の内、たった3州の2%足らずの有権者の投票で決まったのであれば、「接戦」だったという見方も成り立ち得る。また、各種報道によれば、全国的に見てもトランプの得票率は最終的には50%を切り、ハリスとの差は1.6%程度に留まる見通しだ。
「共和党」対「民主党」の次元で見ると、両者の差はさらに接近する。共和党は今回の選挙で上院の多数を回復し、いわゆる「トリプル・レッド」を達成した。しかし、改選議席の関係でもともと有利とされていた上院選挙において、共和党が奪還した4議席のうち3つは、同党が地盤とする「レッド・ステート」の議席であり、両党の支持が拮抗する「パープル・ステート」5州(ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニア、アリゾナ、ネバダ)では1勝4敗と負け越している。
さらに、下院選挙においても、通常であれば大統領選挙を制した党が議席を相当程度伸ばす傾向(「バンドワゴン効果」)が見られるが、共和党の獲得議席は過半数には届いたものの、民主党との差は僅差に留まる見通しで、今後議員の異動によっては、中間選挙を待たずに過半数を割る可能性も排除されない状況にある。
以上の状況に拘らず、トランプが50州のほぼすべてで、かつ、ほとんどの投票グループで支持を伸ばし、選挙人の数のみならず、得票数でもハリスを上回ったことを踏まえれば、彼の勝利が(「圧勝」と呼ぶかどうかは別として)決定的なものであったことを否定することは難しい。
ただし、候補同士のマッチ・アップを別にすれば、両党への支持は依然として拮抗しており、今回の選挙を契機に近年の政治的分断がただちに解消に向かうと見ることは困難であろう。
2. 特定のイシューを超えた反現職の風
フィナンシャル・タイムズ紙のまとめによれば、今回の選挙において、トランプはワシントン州を除く全ての州で前回選挙を上回る得票率を記録しており、民主党の地盤であるニューヨークやコネチカットにおいても、前回選挙における民主党との差を10ポイント以上縮めている2。人種、年齢、教育水準ごとの投票グループの中で、ハリスが前回のバイデンによる得票率を上回ったのは、65歳以上の有権者と学位を持つ白人女性だけであり、非白人を含む他のすべてのグループでトランプへの支持の移動が確認されている。
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