トランプ政権の「一国主義」と「帝国主義」
Foresight World Watcher's 4 Tips

トランプ大統領の掲げる「アメリカ・ファースト」は、第一義的には他国への支援や関与を回避する姿勢とされます。最近ではガザの停戦合意に関する「(停戦が維持されるか)確信はない。あれは我々の戦争ではない。彼らの戦争だ」との発言に、その本質がよく出ているように感じました。
ただ、アメリカ・ファーストが常に引き籠りを意味するわけではないことも理解しておく必要がありあそうです。この一国主義の源流には第5代大統領ジェームズ・モンローが1823年に打ち出したモンロー・ドクトリン(ヨーロッパ諸国の紛争に干渉しない一方、西半球への干渉も拒否するという外交姿勢)がありますが、これは「西半球は自国の勢力圏として確保する」という覇権主義の側面も併せ持ちます。19世紀半ばの米墨戦争、さらに19世紀後半から20世紀初頭にかけてのラテンアメリカ諸国への介入が、そのことをよく示します。
トランプ大統領は就任前も、そして就任演説でも第25代大統領ウィリアム・マッキンリーに言及しました。マッキンリーは高関税政策を採るとともに、米西戦争などの帝国主義的政策を推進したことで知られます。今週取り上げる英エコノミスト誌の社説は、トランプ政権の一国主義と背中合わせの関係にある「古くて新しい野望」に注目しています。
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[IT'S DEBATABLE]Will Trump End America's Wars—or Start New Ones?【Emma Ashford, Matthew Kroenig/Foreign Policy/1月24日付】
マシュー・クローニグ「私は[ドナルド・トランプ大統領の2期目就任]演説が主に前向きで、米国の未来について楽観的であるところが気に入りました。主要なテーマは『強さによる平和』という彼のマントラ[呪文]にかかわるものでした。また、彼は自由と米国例外主義を多く語りました。これは彼が1期目ではあまり強調しなかった問題です[略]」
エマ・アシュフォード「[略。就任演説から]引用するなら最も重要な文言はこれだと思います。『われわれの成功は、勝利した戦いだけでなく終結させた戦争によっても、そしてこれこそ最も重要なのだが、参戦しなかった戦争によっても測られるだろう。私の最も誇らしい遺産は、平和の創造者であり統一者であることになるだろう』」
「トランプ大統領の就任により、共和党におけるジョージ・W・ブッシュ流の新保守主義が終焉を迎えたことがますます明らかになってきています。大統領は中東での無限の戦争に巻き込まれたくないとの考えを明確にしており、すでにガザとウクライナでの戦争を終わらせようと語っています」
第2次トランプ政権の発足を受け、米「フォーリン・ポリシー(FP)」誌サイトの時事対談連載「IT'S DEBATABLE」は、「トランプはアメリカの戦争を終わらせるのか――それとも新たに始めるのか?」(1月24日付)をテーマに掲げた。
米大西洋評議会スコークロフト戦略安全保障センターの副所長兼上級研究員であるクローニグと、スティムソン・センターの「米国のグランド・ストラテジー再考」プログラムの上級研究員であるエマ・アシュフォード(いずれもFP誌コラムニスト)は、トランプの就任演説について、上記の引用のような見方を示し、さらに続ける。
クローニグ「私は、トランプ大統領の『力による平和』戦略はブッシューレーガン時代以前の国防政策のコンセンサスを反映していると見ています。トランプ大統領は演説で、『世界がかつて目にしたことのない最強の軍隊』を構築することで平和を実現すると述べました。つまり、それは撤退や宥和ではなく、抑止によって達成される平和なのです」
アシュフォード「トランプは、アメリカの例外主義だけでなく、マニフェスト・デスティニー(19世紀の思想で、米国の運命は北米大陸全体に拡大されるべきものだという考え)も公然と受け入れ、ウィリアム・マッキンリー大統領の外交政策を称賛しました」
「パナマ運河に関する言及とあわせて考えると、この政権はここ数十年よりはるかに西半球[南北米州]に注目するようになることが見てとれます。確かに、この方針転換は遅すぎたものですが、またしても、特にメキシコ湾の名称変更のような愚かなことで、この地域諸国を遠ざけてしまうのではないかと心配しています」
America has an imperial presidency【Economist/1月23日付】
ここでアシュフォードが触れたトランプ2.0の“マッキンリー志向”については、英「エコノミスト」誌が「歴代大統領のなかでトランプ氏が演説で時間を割いたのは、1897年に就任した『偉大な大統領』、ウィリアム・マッキンリーだけだった」として、深掘りしている。

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