
2025年、ベネズエラは長年にわたる民主化闘争が結実するか否かの緊張が高まるなかで新年を迎えた。ベネズエラでは過去25年、「21世紀の社会主義」を標榜した故ウーゴ・チャベス大統領と後継ニコラス・マドゥロ政権のもと、民主主義が弱められ権威主義化が進んだ。彼らは選挙管理委員会(選管)や司法を含むすべての国家権力を支配し、さまざまな方法で選挙を歪め、与党勝利の出来レースを繰り返すことで長期政権化してきた。
しかし2024年7月の大統領選挙は、反政府派の周到かつ秘密裡の準備によって、マドゥロ政権とその支配下にある選管は予想しない事態に直面した。選管がマドゥロ勝利と発表した直後に、反政府派が彼らの候補者エドムンド・ゴンサレスがマドゥロに圧勝したと発表しただけでなく、それを証明する動かぬ証拠をインターネット上に公開したのである。
ベネズエラの選挙は機械投票で行われる。全国各地に設置された投票機は投票締切直後に集計票を自動印刷し、それを選管職員と与野党双方の立会人が確認、署名した上でそれぞれに渡される。反政府派選対本部は全国の野党側立会人に、集計票を受け取ったら速やかに送るよう秘かに指示を出し、全国3万台の投票機のうち2万5000台分を集めることに成功したのである。そしてそれらすべての画像を、2日も経たずにインターネット上に公開するという離れ技をやってのけた(https://resultadosconvzla.com/)※。虚を突かれた選管は、それに対して「マドゥロ勝利」を証明する集計票を見せることができず、マドゥロ勝利と発表するのみであった。
反政府派側が発表したゴンサレス67%、マドゥロ30%という結果は、選挙前の各種世論調査や当日の出口調査の結果ともほぼ一致している。また投票機は選管が管理しており、反政府派が何らかの操作を加える余地はまったくない。
選挙後の政治弾圧と国境を越えた民主化闘争
このような状況でマドゥロ政権は、選挙直後から反政府派の政治家やジャーナリスト、人権活動家、市民に対する弾圧を強めた。100人以上の未成年者を含む約2000人を拘束し、抗議行動に参加した市民約30人が命を奪われた。反政府派政治家、その側近や家族が次々と逮捕された。ゴンサレスと反政府派の実質的トップリーダー、マリア・コリナ・マチャドは、外国大使館に身を隠し、ゴンサレスはその後スペインへの亡命を余儀なくされた。
マチャドは、反政府派の予備選挙で9割以上の圧倒的支持を得て反政府派の大統領選統一候補に選出された人物である。しかし彼女は政権によって公職追放処分を受けており、大統領選立候補を断念せざるを得なくなった。そのため選挙のわずか3カ月前にマチャドの代わりに反政府派統一候補として指名されたのが、ゴンサレスだった。経験豊かな元キャリア外交官だが政治経験はなく、政界でも一般社会でも無名だったゴンサレスの選挙戦では、マチャドが全国津々浦々同行し、自身への圧倒的支持をゴンサレスに向けさせることに成功したのである。
スペイン亡命後ゴンサレスは元外交官の力量を発揮し、ヨーロッパや南米各国の大統領など多くの政治家と会談を重ね、支持をとりつけた。一方マチャドは国内の潜伏先から連日YouTubeやXで国民を鼓舞し、国内外の反政府派組織と頻繁にオンライン会議を開いて世界各地での抗議アピールの指示を飛ばしてきた。ゴンサレスやマチャドが諸外国政府や在外ベネズエラ人に強く働きかける背景には、人口の4分の1に相当する800万人弱が、経済破綻や政治弾圧などから逃れるために国を出た現実がある。在外ベネズエラ人はマチャドの呼びかけに呼応して世界各地で民主化を求めるアピールを展開しており、日本でも東京、名古屋、大阪、神戸などに居住するベネズエラ人がアピールを続けている。
1月10日をめぐるドラマ
憲法は新大統領の就任日を1月10日と定めている。マドゥロ政権は、反政府派市民の集結やゴンサレスの帰国・就任を警戒して、年明けから首都カラカスの街頭やメトロの駅構内に多数の兵士や警察官、民兵を配置、カラカスは一気に緊迫感に包まれた。

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