素人大臣に翻弄される金融庁の非力

執筆者:磯山友幸 2011年7月14日
タグ: 日本
エリア: アジア

 中央省庁の審議会と言えば、事務局を務める官庁の担当課の役人がシナリオを作り、大臣などの政治家はそのシナリオに従った挨拶だけして退席する、そんな形が自民党時代を通じて続いてきた。もちろん、そのやり方に問題が無かったわけではない。だが、6月30日に開かれた金融庁の企業会計審議会は、政権交代で民主党が「政治主導」を掲げたとはいえ、それとはまた違った意味で、異様な光景だった。

委員を10人追加して意見を一変

「政治決断」で独走中の自見・金融担当大臣(c)時事
「政治決断」で独走中の自見・金融担当大臣(c)時事

 金融担当大臣の自見庄三郎・参議院議員が「政治決断だ」として、事前の記者会見で自らが用意した発表資料を使って結論を公表。審議会の開催直前には委員を10人追加して従来の意見を一変させ、自らは審議会の閉幕まで席を離れず目を光らせた。反対する官僚に対しては人事権をちらつかせて沈黙させた。特命担当大臣に直接の人事権はないとはいえ、政治家のひと言が幹部人事に影響を及ぼすのではないか、という恐れは官僚なら誰でもが抱くものだ。これが国民が求めた「政治主導」の姿なのだろうか。  テーマは国際会計基準IFRSの日本企業への適用を巡る問題だった。2012年に全上場企業にIFRSを適用するかどうかを決断。適用する場合には、3-4年の準備期間を置く、ということを、同じ審議会で2009年に決めていた。この準備期間を5-7年後まで先延ばしすることを「政治決断」したのだ。今回の原稿の目的は、IFRS導入の行方について分析することではない。金融庁がなぜ大臣にそこまで翻弄されることになったのか、官僚機構としての金融庁のあり方を考えてみたい。

カテゴリ: 政治 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
磯山友幸(いそやまともゆき) 1962年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務める。現在はフリーの経済ジャーナリスト活動とともに、千葉商科大学教授も務める。著書に『2022年、「働き方」はこうなる』 (PHPビジネス新書)、『国際会計基準戦争 完結編』、『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、『破天荒弁護士クボリ伝』(日経BP社)、編著書に『ビジネス弁護士大全』(日経BP社)、『「理」と「情」の狭間――大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP社)などがある。
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