フランス大統領選「高揚感なき」政権交代へ

執筆者:国末憲人 2012年4月27日
エリア: ヨーロッパ
勝利をほぼ手中にしたオランド氏(c)AFP=時事
勝利をほぼ手中にしたオランド氏(c)AFP=時事

 どうやらフランスで、ミッテラン大統領以来17年ぶりに社会党政権が誕生しそうだ。右派の現職ニコラ・サルコジ氏と社会党前党首フランソワ・オランド氏との間で争われる5月6日の大統領選決選投票で、すべての世論調査は、オランド氏の10ポイント近い優位を打ち出している。ただ、新政権への期待や高揚感は極めて薄い。欧州危機に伴う生活不安、改善しない失業率への不満に加え、こうした不安や不満のはけ口がない閉塞感も、選挙の動向に色濃く反映している。

真の勝者は右翼?

 4月22日の大統領選第1回投票で、オランド氏は28.63%を獲得し、サルコジ氏の27.18%を上回った。これはほぼ、事前の予想通り。意外だったのは、第3位だ。
 世論調査でこの座は、共産党やトロツキストの支持層を結集した「左翼戦線」のジャン=リュック・メランション氏が占めてきた。ふたを開けると、ずっと4位だった右翼「国民戦線」のマリーヌ・ルペン氏が17.9%を得て、11.11%のメランション氏を逆転。しかも、父ジャン=マリー・ルペン氏が2002年に決選で獲得した約550万票を大きく上回り、右翼として史上最高の640万票あまりを手に入れた。南部ガール県ではオランド、サルコジ両候補を抑えてトップに立った。
 国民戦線の選挙事務所は、まるで当選を果たしたかのようなムードだったという。ルペン氏は「これは始まりに過ぎない。戦いを続けよう」と挨拶した。
 ルペン氏は、極めて現実的な人物である。大統領に選ばれる幻想など、抱いてはいまい。国民戦線の照準はむしろ、大統領選直後の6月の総選挙にある。小選挙区制のためこれまで議席を持てないできたが、今の勢いを維持すると、国民議会(下院)での議席獲得という悲願を達成できる。そう計算しているだろう。
 アリオ副党首は「私たちは4回戦の選挙のまっただ中だ」とハッパをかけた。4回が、ともに2回投票制である大統領選と総選挙の2回ずつの投票を意味しているのは、言うまでもない。

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執筆者プロフィール
国末憲人(くにすえのりと) 東京大学先端科学技術研究センター特任教授 1963年岡山県生まれ。85年大阪大学卒業。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。パリ支局長、論説委員、GLOBE編集長、朝日新聞ヨーロッパ総局長などを歴任した。2024年1月より現職。著書に『ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景』(岩波書店)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)、『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(いずれも新潮社)、『イラク戦争の深淵』『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(いずれも草思社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『テロリストの誕生 イスラム過激派テロの虚像と実像』(草思社)など多数。
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