中東―危機の震源を読む (84)

アラブの春から2年──イスラエルが直面する新たな現実

 排除されてきたハマースが「主流化」「体制化」している(ガザを初訪問したミシュアル政治局長=中央左=と歓迎するハニーヤ首相=中央右=)(c)EPA=時事
排除されてきたハマースが「主流化」「体制化」している(ガザを初訪問したミシュアル政治局長=中央左=と歓迎するハニーヤ首相=中央右=)(c)EPA=時事

 2010年の12月17日、チュニジアの「寒村」と言っていいようなさびれた小都市で1人の青年が焼身自殺を図ってから2年。中東の政治は急激な変化の過程にあるが、その影響を深いところで受けるのがイスラエルである。南で国境を接するエジプトではムバーラク政権が倒れ、ムスリム同胞団主体の政権が誕生して権力基盤を築こうとしている。北の国境を接するシリアではアサド政権が混乱の中に崩壊しつつある。これによりイスラエルの置かれた戦略環境は激変した。11月にガザのハマースとの戦闘を行なったイスラエルだが、国際社会の非難も気にせず、米国の全面的な支持をたのみに、思いのままに掃討作戦を行なって目的を十分達成したうえで引き揚げるという、かつてのような「行動の自由」はもうない。

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執筆者プロフィール
池内恵(いけうちさとし) 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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