バルト諸国が抱く「ロシア系住民保護」への懸念

 ウクライナ情勢は、ロシアの大規模軍事侵攻の恐れが完全に遠のいたわけではないものの、むしろ硬直状態に陥っている。この間も、ロシアは統制下に置いたクリミア半島で、支配の既成事実化を着々と進めている。ウクライナ本土と半島との境には検問が設けられ、3月6日から8日にかけては、欧州安保協力機構(OSCE)の監視要員が続けて入域を阻まれた。ロシア部隊と目される兵士らが境目に沿ってせっせと塹壕を掘り、「国境」づくりに精を出しているとも伝えられる。

 今回ロシアが一連の行動の名目として挙げているのは、クリミア半島で6割に達すると言われる「ロシア系住民の保護」だ。これが波紋を投げかけている。旧ソ連や旧東欧諸国の多くは、ソ連時代に移り住んできたロシア系住民を抱えている。彼らを突然、ロシアが保護すると言い出したら? そのような不安を、ロシアの今回の行動は裏付けることになった。

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
国末憲人(くにすえのりと) 東京大学先端科学技術研究センター特任教授 1963年岡山県生まれ。85年大阪大学卒業。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。パリ支局長、論説委員、GLOBE編集長、朝日新聞ヨーロッパ総局長などを歴任した。2024年1月より現職。著書に『ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景』(岩波書店)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)、『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(いずれも新潮社)、『イラク戦争の深淵』『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(いずれも草思社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『テロリストの誕生 イスラム過激派テロの虚像と実像』(草思社)など多数。
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