フィリピン人「介護士」を阻む見えない壁

執筆者:出井康博 2008年2月号
エリア: アジア

「オトーサン、爪を切りましょうか?」「ほな、頼むわ」 川端勝美さん(七三)が糖尿病でむくんだ足を、いかにも重たそうに持ち上げる。すると正面に座ったフィリピン人介護福祉士(以下、介護士)、マリシェル・オルカさん(二八)が、その足を自らの膝の上へとそっと導き、真剣な表情で爪切りを動かし始めた。 マリシェルさんには日本語検定二級に挑戦するほどの語学力がある。日本に留学中、介護施設でアルバイトをした経験があり、高齢者の扱いにも慣れている。タバコを片手に持った川端さんの表情が満足そうだ。 フィリピンの首都マニラから北に向かって車で約三時間。厳重な検問をくぐった先にあるスービックは、一九九二年まで米海軍基地があったことで知られる。その一角につくられた日本人高齢者向けの介護付き滞在施設「トロピカル・パラダイス・ヴィレッジ」(TPV)で展開する光景は、将来の日本の介護現場を象徴するものだ。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
出井康博 1965年、岡山県生れ。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒。英字紙『日経ウィークリー』記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)を経てフリーに。著書に、本サイト連載を大幅加筆した『ルポ ニッポン絶望工場」(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『松下政経塾とは何か』(新潮新書)など。最新刊は『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)
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