ブックハンティング・クラシックス (41)

本省人の視点から綴った台湾の苛酷極まる戦後史

執筆者:樋泉克夫 2008年8月号
エリア: アジア

『台湾のいもっ子』蔡徳本著集英社 1994年刊(現在は角川学芸出版刊の新版がある)「一九五四年十月二日土曜日の空は、青く澄みきって、日は燦々と輝き、南から吹いてくるそよ風」を心地よく感じながら、著者の分身である「いもっ子」の青年教師・蔡佑徳は自宅の裏庭のザボンの木の下で小学校のクラスメートと碁を打っていた。この秋の日こそ、彼にとって「一生涯忘れえぬ悪夢の始まりの一日」となる。だが、薩摩芋に似た地形の台湾に生まれ育ち、貧しさゆえに薩摩芋ばかり食べていたことから自らをいもっ子と呼び、蒋介石と共に大陸から渡ってきた外省人からもそう呼ばれ蔑まれてきた本省人にとっての「悪夢の始まり」は、じつは四五年八月十五日の日本敗戦だった。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
樋泉克夫(ひいずみかつお) 愛知県立大学名誉教授。1947年生れ。香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士課程を経て、外務省専門調査員として在タイ日本大使館勤務(83―85年、88―92年)。98年から愛知県立大学教授を務め、2011年から2017年4月まで愛知大学教授。『「死体」が語る中国文化』(新潮選書)のほか、華僑・華人論、京劇史に関する著書・論文多数。
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