ルネサス「公的資金で救済」のモラル・ハザード

執筆者:安西巧 2012年10月30日
タグ: 台湾 日本

 半導体大手ルネサスエレクトロニクスの再建を巡り、日本の官民連合よる買収構想が動き出した。同社は自動車用マイコンで世界シェア4割を握るトップメーカー。「日本の産業競争力を維持するために欠かせない企業」(経済産業省幹部)という大義名分で2000億円近い公的資金が投じられる見通しだが、11月の合意を目指し、霞が関主導で慌ただしく進められているこのM&A(合併・買収)にはどうもイヤな感じが拭えない。

7期連続の赤字

7月、大規模なリストラ策を発表した赤尾泰社長 (C)時事
7月、大規模なリストラ策を発表した赤尾泰社長 (C)時事

 同社は日立製作所と三菱電機のシステムLSI(大規模集積回路)事業を統合して2003年に発足した「ルネサステクノロジ」が前身。この会社に、同業の「NECエレクトロニクス」が10年に合流してできたのが現在の「ルネサスエレクトロニクス」である。設立の経緯から分かるように寄り合い所帯で求心力が働かず、余剰人員や設備の削減も遅れて収益は低迷。テクノロジとNECエレの統合前の単純合算による業績までさかのぼると、最終赤字が7期も続いている。  12年3月期(以下業績は連結ベース)に626億円の最終赤字を計上して自己資本が2180億円にまで減少。信用不安が広がり、13年3月期中の資金借り換えが不安視されるようになったことから、ルネサスは今年7月3日、赤字体質脱却のために国内拠点を半減させ、3割の人員を削減する大規模なリストラ策を発表した。  ここで問題になったのは早期退職者への退職特別加算金などリストラ費用の捻出。当初5月段階では、必要資金を約1000億円と見て、旧母体企業で現在は大株主であるNEC、日立、三菱電機の3社が計500億円を出資、メーンバンクの三菱東京UFJ銀行以下、みずほコーポレート銀行、三菱UFJ信託銀行、三井住友信託銀行の取引銀行4行が計500億円を融資する方向で交渉が始まった。

カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
安西巧(あんざいたくみ) ジャーナリスト 1959年福岡県北九州市生まれ。1983年早稲田大学政治経済学部政治学科卒、日本経済新聞社入社。主に企業取材の第一線で記者活動。広島支局長、編集委員などを歴任し、2024年フリーに。フォーサイトでは「杜耕次」のペンネームでも執筆。著書に『経団連 落日の財界総本山』『広島はすごい』『マツダとカープ 松田ファミリーの100年史』(以上、新潮社)、『さらば国策産業 電力改革450日の迷走』『ソニー&松下 失われたDNA』『西武争奪 資産2兆円をめぐる攻防』『歴史に学ぶ プロ野球16球団拡大構想』(以上、日本経済新聞出版)など。
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