またも機密漏洩「フランシスコ法王」と「バチカン高官」の仁義なき戦い

執筆者:秦野るり子 2015年11月19日
エリア: ヨーロッパ

 バチカン内で亀裂が深まっている。「改革」を旗印とするローマ法王フランシスコとこれに反発する保守派という図式だ。法王の脳腫瘍説が流されたり、前任者ベネディクト16世を事実上、辞任に追い込んだ「バチリークス」事件を彷彿とさせる機密文書漏洩事件が発生したりしている。フランシスコは、信者を前に「嘆かわしい事が起ころうとも全ての支持者とともに改革を進める」と改革断行の決意に揺らぎがないことを宣言し、抵抗勢力に対峙する姿勢を示している。

保守派の攻撃

 10月21日、イタリアの新聞「コティディアーノ・ナツィオナーレ」に、法王フランシスコに脳腫瘍がみつかった、という記事が掲載された。世界的権威の日本人医師が、手術は必要なく治療可能と診断した、とも付け加えている。これに対しバチカン報道官は即座に、「根拠がない」「非常に無責任で不公正極まりない報道」と言葉を尽くして全面否定した。婚姻や同性愛の問題を争点とする世界司教会議が開催中というタイミングだっただけに、保守派が仕掛けたのではないかと見られた。アメリカ人記者で長らくバチカンを取材するジョン・アレン氏は、司教会議がまとめる提言を受けて法王が何らかの改革方針を示す予定であることから、その判断の健全性に疑いを投げかけておこうとした試みだと見る。また、「バチカンの長い歴史の中で、法王の健康問題に関するうわさが浮上し当局が否定したものの、後になって真実であったという例がある」ため、報道官の全面否定でも皆が納得するわけではなく、この問題が尾を引く可能性を指摘する。

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執筆者プロフィール
秦野るり子(はたのるりこ) 1957年東京生まれ。江戸川大学教授。1982年、読売新聞社入社。経済部に配属され、農水省、流通業界、通産省(現経産省)、日銀などを担当。89年に国際部へ異動。ワシントン、ジャカルタ、ローマ特派員、国際部デスクなどを経て2008年から調査研究本部主任研究員。コロンビア大学ジャーナリズム大学院客員研究員、カリフォルニア大学バークレー校ジャーナリズム大学院客員講師も務め、2016年から富山国際大学教授、2019年から現職。著書に『ローマ法王2年目の挑戦』(読売新聞社)、『バチカン』(中公新書ラクレ)、『悩めるローマ法王 フランシスコの改革』 (中公新書ラクレ)などがある。
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