桜の季節の日本列島は、1年でもっとも美しい。絢爛に咲き誇り、はかなく散っていく桜……。日本人の美意識、死生観にこれほど合う花は、ほかにない。
花は散り、そして1年の流転ののち、ふたたびこの世にもどってくる。おそらく、旧石器時代や縄文時代から継承されたアニミズム、多神教的宗教観と桜は、うまく合致したのだろう。
西行の有名な、
「ねがはくは 花のしたにて 春死なん そのきさらぎの もち月のころ」(『山家集』)
も、桜に対する、日本人固有の意識が表されている。近代に至っても、梶井基次郎は、
「桜の樹の下には屍体が埋まっている!」(新潮文庫『檸檬』に収録の『桜の樹の下には』より)
と、研ぎ澄まされた感性で桜の神秘性を表現している。日本人にとって、桜は特別な存在なのだ。

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