「韓国総選挙」を検証する(下)「大統領候補たち」の明暗

執筆者:平井久志 2016年4月27日
エリア: アジア

 韓国政治は国会議員選挙が終わったことで、既に来年12月の次期大統領選挙に動き始めた。今回の総選挙は朴槿恵大統領への中間審判であると同時に、大統領選挙の前哨戦であった。以前にも紹介したが、韓国では大統領という「龍」の座を目指す政治家を「潜龍」と呼ぶ(2011年6月28日「韓国大統領選へ動き出した『潜龍』たち」参照)。今回の総選挙では「潜龍」たちの浮沈が明確になった。

「セヌリ党」候補は消えた?

 世論調査会社の韓国ギャラップが総選挙前の3月8~10日に実施した調査で、次期大統領として誰が良いかという質問では、第1位は「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)氏で16%、第2位は「セヌリ党」の金武星(キム・ムソン)代表で11%、第3位は「国民の党」の安哲秀(アン・チョルス)共同代表で10%、第4位は朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長で9%、第5位が呉世勲(オ・セフン)元ソウル市長で9%、第6位が「セヌリ党」の劉承旼(ユ・スンミン)議員で3%、第7位が金文洙(キム・ムンス)元京畿道知事で2%という結果だった。
 世論調査でも、与党「セヌリ党」で最も有力な大統領候補とみられていたのが金武星代表だ。金武星代表は朴槿恵大統領とは距離を置く「非朴」だが、与党を束ねていた。しかし、党の公認をめぐり「親朴」の李漢久(イ・ハング)公認管理委員長の公認決定に対して党代表が印を付かないという「玉璽闘争」を展開し、与党の親朴派と非朴派の対立を決定的にし、与党敗北の原因の1つをつくった。金武星代表は選挙前から選挙の結果にかかわらず、代表職を辞任するとしていたが、開票翌日に惨敗の責任をとって辞任した。これほどの大敗を喫した上に、「セヌリ党」は議席を大きく減らしたが、当選者の多数は非朴派ではなく、親朴派である。親朴派が多数を占める中で惨敗の責任者である非朴派の金武星氏が大統領候補になるのは容易ではない。
 また、この総選挙には、国会議員職から離れていた呉世勲元ソウル市長、金文洙元京畿道知事も立候補した。特に総選挙前の次期大統領の世論調査では第5位だった呉世勲元ソウル市長は55歳と若く清新なイメージがあり、韓国の政治1番地といわれる鍾路選挙区で立候補したが、39.72%しか得票できず、「共に民主党」の重鎮、丁世均(チョン・セギュン)候補の52.60%に大差で敗れた。また、金文洙元知事も与党の地盤である大邱寿城区甲選挙区で立候補したが37.69%しか取れず、保守の牙城で地域主義打破を掲げた「共に民主党」の金富謙(キム・ブギョム)候補(62.30%)に大敗した。
 呉世勲元市長、金文洙元知事は与党内の支持基盤も弱く与党の大統領候補への道は絶たれたように見える。金武星氏も総選挙の惨敗の責任から自由になるのは難しく、「セヌリ党」内の大統領候補がいなくなってしまった。 

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
平井久志(ひらいひさし) ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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