「中港矛盾」さらに深めた「香港行政長官選挙」

執筆者:野嶋剛 2017年3月28日
エリア: アジア

  「777」という得票数が発表されると、会場がどよめいた。
 3月26日に行われた香港行政長官選挙。当選を知らせる香港政府の選挙委員会の発表で、本命の親中派候補、前香港政府政務官(ナンバー2)の林鄭月娥(キャリー・ラム)氏が獲得した票数で奇しくもラッキーセブンが並んだこともあるが、予想以上の高い票数にも驚きが広がった。香港は間接選挙で1200人の選挙委員が行政長官を選ぶ仕組みである。今回の選挙では林鄭氏の勝利が確実視されており、その得票数に関心が絞られていた。

「圧倒的不人気」のなか「圧倒的得票」

 現職の行政長官、梁振英氏は2012年に689票という、過半数の600票をかろうじて超える形で当選したのだが、その後なにかにつけて「689」というあだ名でからかわれた。その梁氏の後継者の役割を負う林鄭氏がどれだけ票数で689票を上回れるかが問われ、上回れないとなると、林鄭氏を推した中国も、林鄭氏自身も、相当にメンツがつぶれる事態になるはずだった。
 林鄭氏は香港返還以来、第4代目の行政長官となり、7月1日から5年の任期に就く。女性としても初のトップだが、これほど先行きが見通しにくい船出を迎える行政長官も1997年の返還以来、初めてである。
 なにしろ、世論の「圧倒的な不人気」のなかで、「圧倒的な得票」による勝利だ。中国寄りの選挙委員中心で構成される選挙委員会によって選ばれる選挙方式が、香港の民意をまったく反映しないものであることを、極めてわかりやすく示すものだったから、さらなる火種を残したことは間違いない。

カテゴリ: 政治 社会
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執筆者プロフィール
野嶋剛(のじまつよし) 1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)、『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)など。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『香港とは何か』(ちくま新書)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com
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