『素顔のヴィルトゥオーソ』第1回 ヴァイオリニスト寺下真理子

執筆者:フォーサイト編集部 2018年4月5日
5月には再び台湾でのコンサートも控えている

 

国際的に活躍する音楽家の素顔に迫るインタビューシリーズ、第1回目は、ヴァイオリニストの寺下真理子さんに話を聞きます。

東京芸術大学音楽学部附属音楽高等学校、同大学、ブリュッセル王立音楽院修士課程を卒業した寺下さんは、数々の音楽賞を受賞するとともに国内はもとより海外でも精力的に演奏活動を続けています。詳しいプロフィールは、こちらから(公式HP)。

 

――最近、ドイツに行かれて特別レッスンを受けてこられたとか。

 

はい、誰かに個人レッスンを受けるのはたぶん7年ぶりぐらいでしょうか。ある方のレッスンをどうしても受けたくて、2週間ほどフランクフルトに滞在しました。

キッカケは、ヴァイオリニストの後輩です。あるとき彼女が、ちょっと助言がほしいと留学先のドイツから動画を送ってきたのです。聴いてみてもうビックリ。まだドイツに行って1年も経っていないのにものすごく上達していて、いったいどんなレッスン受けているのかなと思って。

私自身も、自分の演奏に満足できていない部分があり、どうやったら改善できるのか、どこに気をつけたらもっと納得できる演奏ができるのか、毎日常に考えていて、ちょうど、誰かの客観的な意見を聞いてみたいと思っていたところだったのです。それで彼女に紹介してもらいました。助言を求められたのに、逆に私が頼みごとをした形ですね。

そして実際にレッスンを受けてみると、本当にとても細かい部分まで教えてくださる方で、彼女があれだけ上達するのも納得でした。

 

――どういう成果がありましたか。

 

私が欲しかったアドバイスというのは、曲に対する感情的なアプローチだけではなく、その音を表現するためのむしろ理論的な技術的な具体的な方法についてだったのです。いくら感情を込めていても、技術がなければ崩れてしまう。弾きたい気持ち、それぞれの曲に対する感情はとても強くもっているので、そういう自分の感情をどうやって技術と組み合わせるとうまく表現できるのか、ということをかなり細かく教えてくださる先生でした。

「すばらしいレッスンでした」

たとえば、ウォーミングアップの仕方も詳しく教えていただきました。弓使いの細かい技術などすごく具体的で、それこそ指の関節レベルでとても細かく、そこはこういうふうに使うのよって。多くの先生方は、そこはクレッシェンドで弾いてとか強く弾いてとか、そこはもっと感情を乗っけて、というふうに教えてくださっていたのですが。でも、今回は具体的にどういう技術で、たとえば手首はどういう角度で、肘の高さはどのくらいでとか、そういうことをハッキリと教えて下さる先生でした。

もちろん、演奏は感覚で詰めていく部分も大きいのですが、私はむしろ理論的なことを大事にしたい。だから腕の角度とか、この音の時にはどちらの足に体重を乗せ、それをどう移動させるかとか、曲の構成や和声を分析して理詰めで考えています。ですから、すごくよい演奏ができたときにも、何をどの部分でどうやったことでよかったのかをノートに記入して、自分の頭で理解していきます。

私は曲に対する感情論だけではなく、具体的な技術的かつ論理的なアドバイスこそ欲しかったので、とても充実したレッスンを受けられました。

 

――どういう先生ですか。

 

フランクフルト音楽大学の教授をされているソフィア・ヤッフェ(Sophia jaffe)先生ですが、ソリストとしてリサイタルなどの演奏活動もされていて、ヨーロッパでもとても著名な女性ヴァイオリニスト。本場のドイツでソリストとして認められるってとてもすごいこと。ですから、やはり一流のソリストとしての言葉はとてもリアルで重いし、言葉の1つ1つに説得力があるからすごく納得ができる。本当にドイツに行ってよかったと思ったし、できることならまたレッスン受けたいですね。

 

――フランクフルトには他の目的もあって行かれたのですか。

 

 
バッハ・ミュージアムには、実際にバッハが弾いていたオルガンも(寺下さん撮影)

もちろん、世界最高峰と言われるベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を本拠地で聴くことは最初から決めていました。日本でも人気の高いヴァイオリニストの樫本大進さんがコンマス(コンサートマスター)を務めておられます。

私が聴きに行った日の演奏はプログラムがとても変わっていて、ショスタコービッチのヴァイオリン協奏曲2番とシベリウスの交響詩「タピオラ」、そしてプロコフィエフの交響曲2番でした。小品など、日本ではあまり演奏されない演目ばかりですごくラッキーでした。

フランクフルトは、やはり戦争の影響でしょうか、あまり古い建物が残っていなくて、どちらかというと新しい街という印象でした。それと、物価が安い!日本と比べてかなり安いですね。滞在中は後輩と一緒に自炊していましたからスーパーに買い物にも行きましたが、ドイツはBIO(ビオ=Biologisch=オーガニック)大国でもあるので、オーガニック製品がとても多く嬉しかったですね。生活しやすいなと感じました。

静謐な佇まいにも感動したブルッフのお墓(同)

あと、7月に関西フィルハーモニー管弦楽団と大好きな作曲家マックス・ブルッフのスコットランド幻想曲を演奏する予定なのですが、ブルッフのお墓がベルリンにあって、そこに行けたのも私にとってはとても感動的な経験でした。とにかく私、ブルッフの曲が大好きすぎて(笑)。だから、お墓だけど、嬉しかったです。

レッスン以外ではベルリンフィルとブルッフのお墓が2大お目当てでしたが、ほかにもライプツィヒに足をのばし、バッハが27年間オルガン奏者を務めていた聖トーマス教会と、その隣にあるバッハ・ミュージアムにも行きました。ここにはバッハが実際に弾いていたオルガンが展示されていて、もちろん修復を重ねているので現存しているのはパーツだけですが、椅子はバッハが座っていた当時のものだそうです。

こういう経験は、今後の演奏のなかでも何かインスピレーションとして影響を及ぼしてくれるのではと、私自身も期待しています。私の場合、普段の演奏でも、弾いている途中で何かしらそういうイメージに飛ぶというか、繋がる瞬間もあるのです。

 

――ヴァイオリンは5歳から始められたそうですが、とくに音楽家一家というわけではなかったのですね。

 

そうです、どちらかと言えば理系一家で、親兄弟とも医者という一族ですね。そんななかでなぜか私だけが音楽に進みました。祖父母が誕生日にヴァイオリンを買ってくれたのがキッカケです。

小学校3年生のときに、師事していた先生から、この先プロのヴァイオリニストを目指すのかどうか、もう決めなさいと言われまして。目指すのならば、いまからやらなければならないことが山ほどあるし、間に合わないからと。そう言われて自分でも意識し始め、5年生のときには自分で確実に決めていました。

5年生のとき、世界的に著名な五嶋みどりさんの「第1回レクチャーコンサート」が大阪であり、出演させていただきました。そこには全国から選ばれた同年代のライバルたちが集まっていましたから、ものすごく刺激を受けたのをいまでも鮮烈に覚えています。もちろん、みどりさんに直接指導を受けた内容も、あのドキドキ感とともに鮮明に記憶の中に残っています。そのときに、私は絶対にヴァイオリニストになるんだって決めました。そこからが私のスタートです。

 

――その後、東京芸術大学音楽学部附属音楽高等学校に進学し、芸大に進みます。ベストセラーになった『最後の秘境東京藝大』(新潮社刊)という本では「卒業生の8割は所在不明」というような表現もあり、芸大生にはとにかく奇人変人が多いとか(笑)

 

私は音楽の方しか知りませんが、本当に個性的な人が多いのは確かです(笑)。指揮して、歌いながら歩いていたりとか当たり前ですし、基本的に朝から晩まで練習しているので外に出ないですし。私自身も友人から「変人」「常識ない」と言われていましたが(笑)、でも、ちゃんと演奏のときにはスイッチ変わりますから大丈夫です(笑)

 

――2015年に『Ave Maria』を、そして2017年に『ROMANCE』というCDを発表されました。

 

おかげさまで、どちらも好評をいただいています。全体的に、比較的馴染みのある曲を多くしてある構成を評価していただけているのかもしれませんね。

 
 

2枚とも、映画音楽の中から数曲選んでいますが、それはCDとしてのバランスを考えてのことです。もちろん自分でもクラシックをじっくり聴いていただきたいという思いがまずあって、たとえば『ROMANCE』ではタイトルにも使ったシューマンの「3つのロマンス」やファリャの「スペイン舞曲」、ストラヴィンスキーの「イタリア組曲」などカチッとしたものを最初に決めて、間に入れる曲をどうしようかと考えたとき、やっぱり自分が大好きな映画音楽を入れようと。私、エンニオ・モリコーネの曲が大好きで、それで映画『ニュー・シネマ・パラダイス』や『ミッション』などからピックアップしました。ほかにも、ミュージカルも大好きなので『レ・ミゼラブル』や、ソフィア・ローレン主演の名作映画『ひまわり』からも。そういう作品は、たぶんクラシックに馴染みが薄くてもよく知られているし、親しんでもらえるかなと思いました。

 

――ストラヴィンスキーやショスタコービッチなど、旧ソ連の作曲家に傾倒しているとか。

 

彼らが生きた1900年代前半の旧ソ連(ロシア)は、よく知られているように大変厳しい社会状況でした。芸術や音楽に限らずあらゆる自由が制限され、体制に管理されていたから、彼らもそれこそ命がけで作曲していたわけです。スターリンに、反体制の音楽だと認定されれば、それだけで処刑されることがあった時代です。 そういう状況のなかで彼らが生み出した音楽には、とても深いメッセージも込められていると感じます。

以前、『ショスタコービッチの証言』という、 本人と交流のあったロシアの音楽家が書いた 本を読んだのですが、ショスタコービッチは「体制とスターリンに迎合した作曲家」 と評されていましたが、本人の内面ではとても苦しい葛藤があったということです。そういう背景を知ったうえで演奏すると、 本当に深く感じるものがあります。

たとえば、ショスタコービッチのヴァイオリンコンチェルト(協奏曲)など、作曲はされていたのに、スターリンの死後にようやく発表されました。だから、彼のシンフォニー(交響曲)の5番7番などと比べると、雰囲気がまったく違う。すごく開放感があるし、希望を感じます。

コンチェルトには、きっと本当はショスタコービッチ自身が抱いていたのであろう夢や希望、光、そして愛情などのメッセージを込めて作曲したのではないかと私は感じます。ですから、このコンチェルトを演奏していると、本当に勇気をもらえます。そういう感覚を、聴いてくださる方々にもお伝えできたらいいなと思っています。

 

――1枚目のCD『Ave Maria』は、韓国の大手ハイレゾ音源配信サイト『groovers』でいきなり4位にランクイン。そして2015年1月には初の台湾公演も成功させましたね。

 

両方とも人との出会いと繋がりがキッカケでしたが、とても貴重な経験をさせていただきました。とくに、コンサートをさせていただいた台湾は、すごく面白かった。とにかく親日家の方が多いし、日本語も普通に通じますし。年配の方だけかと思っていたら、私と同世代の人たちも普通に日本語を喋っていました。日本のアニメや書籍やゲームソフト、キャラクター商品などがとても人気なのだそうで、日本語を勉強する若い人が増えていると聞きました。

「台湾でのコンサートはとても面白かった!」

そして私のCDも、おかげさまで実は台湾でもとても好評でした。それは私自身も実感していて、2015年のコンサートのときも会場で販売させていただき、好感触でした。

日本と比べて台湾の平均所得は日本の3分1くらいだと聞きました。でも、私のコンサートのチケット代は、逆に日本での2倍くらい。それでもコンサートには会場が満席になるほどたくさん聴きにきてくださいました。そしてCDを1人で何十枚も買ってくださるお客さまもいらして。ほんとビックリしました(笑)。台湾では今後何度でもやり続けたいです。実は今年5月にも演奏会が開かれる予定です。

ちなみに、4月に日本でやらせていただくコンサートでピアノを弾いてくださるのが、ハン・チェンさんという台湾出身の方。まだ若い方ですが、ジュリアード音楽院を出られたとっても素敵な演奏をされるピアニスト。なぜか、台湾とは不思議なご縁があるのです。

 

――これまでで印象深いリサイタルは。

 

2015年、宮城県仙台市で、エレクトーン奏者の清水のりこさんとチャイコフスキーのコンチェルトを演奏させていただきました。作曲家の三枝成彰先生がプロデュースされた『明治安田生命Presents愛と平和のチャリティーコンサート』ですが、自分でもとても納得のいく演奏ができました。すると、もう会場全体からブラボーの拍手と声がわれんばかりに鳴り響きまして、むしろ私の方がそれに衝撃を受けるくらい、本当に感動的でした。

実はそのとき私、精神的にかなり追いつめられていて、理由は忘れちゃいましたけど(笑)、本番前にはそれこそもう泣きながら練習していたのです。まさに死にもの狂いで。だからなのでしょうか、本番では、それまでにないくらい集中していました。多分、鬼気迫る形相だったのじゃないかな(笑)。

とてもたくさんのブラボーをいただけて、本当に大感激でした。あのときの情景、感動は生涯ずっと忘れられません。

私の大好きなヴァイオリニストで、師匠の1人でもある大谷康子さんという先生がいらっしゃいます。よくコンサートもされていらっしゃるし、ご自分がレギュラー出演して演奏されるテレビ番組もあるので、お聴きになった方も多いと思います。大谷先生は、本当に音楽が、ヴァイオリンが大好きで大好きでたまらないという方で、それが演奏にもよく表れていて、聴いているとご自身の楽しさがこちらにも伝わってきますよね。しかも、とても明るくて可愛らしい。本当に尊敬する素敵なヴァイオリニストで、私も大谷先生のようなソリストになりたいなあと思っています。

そしていまの目標は、サントリーホールでコンチェルトを弾き、お客さまに心から楽しんでいただき、感動をお伝えできるような演奏をすること。それを目指してもっともっと頑張りたいです。

 

【今後のコンサート予定】

■4月8日(日)「サンデー・ブランチ・クラシック」

■4月18日(水)「アグネスホテル ランチタイムコンサート」

■4月21日(土)「和歌山市文化奨励賞受賞記念リサイタル」

■4月28日(土)「美少女戦士セーラームーン25周年記念 Classic Concert in 大阪」

■5月約2年半ぶりの海外(台湾)コンサート(詳細は後日「公式HP」にて)

■7月8日(日)和歌山にて「Meet The Orchestra Vol.17」

指揮:藤岡幸夫

ヴァイオリン:寺下真理子

管弦楽:関西フィルハーモニー管弦楽団

 

その他の情報についても、随時「公式HP」にて更新中です。

 

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執筆者プロフィール
フォーサイト編集部 フォーサイト編集部です。電子書籍元年とも言われるメディアの激変期に、ウェブメディアとしてスタートすることになりました。 ウェブの世界には、速報性、双方向性など、紙媒体とは違った可能性があり、技術革新とともにその可能性はさらに広がっていくでしょう。 会員の皆様のご意見をお聞きし、お力をお借りしながら、新しいメディアの形を模索していきたいと考えております。 ご意見・ご要望は「お問い合わせフォーム」や編集部ブログ、Twitterなどで常に受け付けております。 お気軽に声をお聞かせください。よろしくお願いいたします。
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