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真保裕一『こちら横浜市港湾局みなと振興課です』

評者:中江有里(女優・作家)

2019年1月19日
エリア: アジア

主人公は“市の公務員”
ヨコハマの名所をめぐるミステリー

しんぽ・ゆういち 1961年、東京生まれ。2006年、『灰色の北壁』で第25回新田次郎文学賞を受賞。近著に、『暗闇のアリア』『オリンピックへ行こう!』など。

 島国日本には、いくつもの港がある。中でも横浜港は世界各国と結ばれる貿易港で、かつて外国人居留地が設置されたこともあり、今も異国情緒が漂う。カタカナ表記が似合う「ヨコハマ」で起きた事件に立ち向かうのは、市の振興課に勤める公務員。
 ヨコハマの歴史的名所の謎をめぐるミステリー小説。
 港の広報、国際交流、施設管理に防災計画という本来の仕事だけでなく「何でも屋」としてあらゆる厄介事が持ち込まれる横浜市港湾局みなと振興課の職員・船津暁帆(あきほ)は常にオーバーワーク状態。配属されてきた新人・城戸坂(きどさか)泰成は山積みの難題をこなしていくが、国立大卒のエリートの彼がなぜ「何でも屋」へ来たのかが暁帆には解せない。2人の前に寄せられる様々なトラブルは、やがてのっぴきならない事件へと発展する。
 現役弁護士にして元TVキャスターの神村佐智子新市長肝いりのカンボジア港湾庁とのパートナーシップ協定で受け入れた研修生の1人が失踪し、その対応をする中で市長と直接つながった暁帆と城戸坂。しかし役所には新市長をよく思わない旧市長派が存在し、不穏な空気も漂っていた。
 10月の大イベントである横浜港大感謝祭を盛り上げるべく、奔走する暁帆たちだが、大きな催しの成功には官民の協力が不可欠。しかしイベントを利用しようとする地元政治家があらわれて、城戸坂の企画はつぶされてしまう。暁帆は彼の企画に他の目的があるのでは?と城戸坂を問い詰めるが……。
 軽妙なタッチで描かれる暁帆たち公務員の日常と仕事量の多さに驚いた。生涯の安定を求めて選んだ仕事とはいえ、何か事が起こると矢面に立たされ、少しのミスで市民から罵倒されることもあるなど、報われない仕事に見えるが、暁帆はこう言う。「市の職員には、市の未来を担うべき人を支えていく義務があるんです」。暁帆は市の職員として守るべきことを信条にしながら、いつのまにか公務員の枠からはみ出して事件の解決へ踏み込んでいく。大量の仕事を任されて荒(すさ)みかけていた彼女が段々とエネルギッシュに変化していく様子が頼もしく、仕事では有能なのに女心にはまるっきり疎い城戸坂とのやり取りも楽しい。
 5章にまたがる物語の中で、城戸坂がヨコハマで働こうとした動機、神村が市長を目指した理由が見えてくるのと同時に、ヨコハマの名所に秘められた過去が浮かびあがってくる。続編、シリーズ化切望の1冊。

カテゴリ: 社会 カルチャー
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