オカルトの不思議さと謎解きの
論理性、“知的冒険”ミステリー
2日間で、男女が2人ずつ死ぬ。
今村昌弘『魔眼の匣の殺人』は、そんな不吉な予言通りに起きる連続殺人を巡る物語だ。超常現象を扱った小説は数多いが、今村はそこに新たな型を付け加えた。オカルトの不思議さと謎解きの論理性のバランスがとれた、知的冒険の楽しめるミステリーである。
本書は2017年に鮎川哲也賞を獲得した作者のデビュー作『屍人荘の殺人』(東京創元社)の続篇に当たり、前作に続いて神紅大学1回生の葉村譲が語り手を務める。奇怪な事件を引き寄せてしまうという難儀な体質を持つ女性、剣崎比留子がその相棒だ。彼女は、自身に降りかかる火の粉を払うため、やむなく探偵役を担っているのである。
剣崎が発見した雑誌記事が今回の発端となる。それによると、W県の山奥に存在する怪しげな実験施設で、S県で発生した大惨事が予言されていたのだという。その事件こそ『屍人荘の殺人』で描かれた連続殺人と、関係者たちを犯行現場である山荘に閉じ込める原因となった超常現象であった。
葉村と剣崎は記事から得られた情報に基づき、W県の好見(よしみ)地区に向かう。そこには魔眼の匣と呼ばれる建物があり、サキミ様と呼ばれ村人から畏れられる老女が暮らしていた。彼女は未来についての予言を多数行っていたが、その中の1つに、冒頭に挙げた殺人に関するものがあったのである。葉村たちが魔眼の匣に到着したのは、まさにその予言が成就する期日であった。居合わせた複数の男女が否応なく運命に巻き込まれ、やがて本当に死人が出てしまう。
閉鎖空間で起きる連続殺人を描いたという点は前作と共通しているが、違うのは男女が2人ずつ死ぬという「結果」が予言で示されていることだ。すべての要素が予言に向けて収束していくので、後に行くほど物語は加速する。集まった渓流が巨大な瀑布になるようなものだ。
謎解きの美しさこそが本書最大の魅力である。手がかりとして示された部品は、不完全ではないものの仕上げが粗い感じがして、組み合わせても僅かな隙間が残ってしまう。部品が紛らわしい形をしており、正しい向きで並べることが難しいからだ。その混乱に光を照射するのが剣崎比留子の慧眼である。彼女によって世界は整理され、それまで見えていなかった1本の筋道が浮かび上がってくる。不揃いの手がかりがあるべき場所に収まっていく謎解きを読んで、戦慄にも似た快感を覚えた。
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