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Bookworm (74)

浅倉秋成『九度目の十八歳を迎えた君と』

評者:杉江松恋(書評家)

18歳で時が止まった少女をめぐる
青春と追憶のミステリー

あさくら・あきなり 1989年生まれ。2012年、『ノワール・レヴナント』で講談社BOX新人賞"Powers"を受賞しデビュー。著書に『教室が、ひとりになるまで』など。

 もっとも難しい謎は人の心だ。
 ミステリーはさまざまな「なぜ」を扱ってきたジャンルである。犯罪者の動機を追究することに始まり、特殊な状況下で人の心が常とは異なる向きへと進むことの不思議さを、ミステリーは重要な主題として取り上げてきた。浅倉秋成『九度目の十八歳を迎えた君と』はその系譜に連なる長篇である。
 印刷会社に勤める〈俺〉こと間瀬豊はその日、通勤途中の駅で向かいのホームに立つ二和(ふたわ)美咲の姿を見かける。高校2、3年のときの同級生で、密かに恋心を抱いていた女性だ。しかし間瀬は我が目を疑う。二和が18歳の姿のまま全く変わっておらず、しかも高校の制服を着ていたからだ。別人ではない二和美咲だ。
 かつての母校を訪ねた間瀬は、二和がいまだに高校3年生として学校に通い続けていることを知る。彼が卒業した後も変わらず、これが9度目になる18歳の年を繰り返しているのだ。奇妙なことに周囲の者は、それを受け入れているらしい。違和感を覚えているのは間瀬だけなのだ。
 二和と一緒に高校を卒業したいという同級生の夏河理奈の頼みもあり、間瀬は自分も高校3年生だったあの年について調べ始める。夏河によれば、二和が18歳を繰り返す理由はそこにあるはずだというのである。二和の人生に関する調査は、間瀬自身の過去、封印したかった記憶との対決を彼に求めてくる。
 浅倉の前作『教室が、ひとりになるまで』(角川書店)はファンタジー要素のある謎解き小説だった。本書では手がかり呈示がさらに効果的な形で行われるため、謎が解かれた瞬間に重い感慨がこみ上げてくる。
 『教室が、ひとりになるまで』では自我の形成期ゆえに味わう疎外感がミステリーの謎と密接に絡んでおり、その真相も哀切なものであった。本書でも高校生活ゆえの不自由さ、まだ何者でもないがゆえの10代の鬱屈が繊細な筆遣いで綴られていく。
 たとえば、好きな女性に振り向いてもらうために間瀬が当時とった行動は、振り返ってみれば滑稽ともいえるものだった。そうしたちぐはぐさも、柔らかい筆致の中にくるまれた形であれば、すでに青春期を卒業した読者にとっては微苦笑を誘うものになるだろう。時の流れが心の痛みを和らげるのだ。
 変わらずにいること、変わっていくこと。その両方の意味を問うた後に、本書は読者に語りかけてくる。今いる場所にあなたはいていい。そして前に歩きなさい、と。

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