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Bookworm (77)

北上次郎『書評稼業四十年』

評者:大森 望(翻訳家・評論家)

2019年10月13日
エリア: 日本

「本を読んで暮らしたい」…
そんな生活に興味がある人は必読

きたがみ・じろう 1946年、東京生まれ。76年、椎名誠と「本の雑誌」を創刊。2000年12月まで発行人をつとめる。94年に『冒険小説論』で日本推理作家協会賞を受賞。

 〈なぜ書評家になったのか。……めざしていたわけではない。私が考えていたのは、本を読んで暮らしたい、ということだけであった。……しかし本を読むだけでは生活できない。……だから、働く必要がある。ここまではわかるのだが、そこから先がわからない。……つきたい職業が一つもなかった〉(本書あとがきより)
 20歳の頃、そう思っていた大学生・目黒考二は、卒業後、いくつもの職場を転々としたのち、1976年、30歳のとき、椎名誠らとともに書評誌『本の雑誌』を創刊。それと前後して北上次郎の筆名を使いはじめ、78年には毎月4ページのミステリー時評を『小説推理』でスタート。その5年分をまとめた『冒険小説の時代』(83年)は、冒険小説というジャンルの定着に多大な貢献を果たした。以後の活躍はご承知の通り。
 草創期の本の雑誌社については、目黒考二『本の雑誌風雲録』などでさんざん語られているが、本書は著者の“書評稼業”に的を絞った回顧録(?)ということになる。
 高校入学前の春休み(62年)、近所の貸本屋で初めて読んだ大衆小説が松本清張『点と線』。そこから黒岩重吾、笹沢左保、源氏鶏太らの著作を片端から読破した――そんな回想を前フリに、当時の作品や出版状況を改めて分析し、60年代末に大衆小説の大きな転換点があったと喝破する「書評家になるまで」「中間小説誌の時代」が無類に面白い。
 もうひとつの特徴は、著者のユニークな立ち位置。自身が書評家であるばかりか、長年、書評誌の編集長として他媒体の書評をこまめにチェックし、原稿を依頼し、(作家とはほとんど付き合わないかわりに)書評家や編集者と積極的に関わってきた。その交友録みたいな文章も、本書の中でかなりの量を占める。著者が“書評三銃士”と名づけたミステリー書評家トリオ、新保博久、香山二三郎、関口苑生を筆頭に、多くの同業者が登場、その仕事と人となりが紹介される。実は僕自身も俎上に載せられたひとりで、内容についてはいろいろ文句もあるが(なにしろ、生意気で失礼なタメ口キャラとして描かれているのである。こんなに謙虚なのに!)、こうも面白おかしく書かれては白旗を掲げるしかない。他にもインタビューのまとめ、新人賞の下読み、ラジオやテレビの仕事、アンソロジーの編纂などなど、書評以外の“書評稼業”についても詳しく語られる。書評家の生活に興味がある人は必読。いやまったく、本を読んで暮らすのも楽じゃない。

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