実は「危険」も多い「ジェネリック医薬品」品質問題

執筆者:谷本哲也 2019年11月19日
「GIJC」で講演した筆者(左)とワセダクロニクル記者の斎藤林昌氏(「UPLAN」三輪祐児氏提供)
 

 もし「毎日のむ薬に、発がん性物質が含まれていた!」と聞いたらどうするだろう。

「微量なので健康にただちに影響することはない」と言われたところで納得できるだろうか。

 厚生労働大臣の承認を得て製造販売されている薬に、発がん性物質が見つかり回収されるという騒ぎが相次いで起こっている。高血圧治療薬「バルサルタン」の原材料に「N-ニトロソジメチルアミン」(NDMA)などの発がん性物質が含まれていることが判明し、2018年7月から2019年2月にかけて数社から自主回収が発表された。また、2019年9月にも胃薬の一種「ラニチジン」にNDMAが検出され、11社を巻き込む回収騒ぎになっている。

 この発がん性物質の混入事件は、いずれも欧米でまず露見し、その後日本にも波及した。安価な後発薬、いわゆるジェネリック医薬品が主に絡む問題だ。その背景には、ボーダーレス化した医薬品の製造・流通過程と、医療費抑制政策がある。

日常的に処方されるジェネリック

 年々高騰する医療費にどう歯止めをかけるのか。医療費が増え続ける理由の1つは、新薬(先発薬)の価格にある。新薬開発には多額の費用がかかることから高額に設定されることが多く、時には人気漫画の主人公「ブラック・ジャック」ばりに、あまりに法外だと問題視されるほどだ。最近では、数千万円から1億円を超える価格の新薬まで登場している。医は仁術とばかり言っていられない時代なのだ。

 これに対抗する手段として有用なのが、特許切れの薬を真似して作ったジェネリック医薬品である。薬の効き目を左右する有効成分はもちろんのこと、安全性や品質も含め新薬と同様とされ、薬の価格は先発薬の3割引から数分の1以下にまで抑えられる。

 このため世界各国で、ジェネリック医薬品の使用を増やす政策が積極的に取られており、米国やイギリス、ドイツでは処方薬の数量シェアで8〜9割を占めている。日本でのシェアはまだ7割程度だが、厚生労働省は2020年9月までに8割以上に伸ばす使用促進策に取り組んでいる。

 低価格で提供できる秘密は、まず開発費用の安さだ。新薬開発には一般的に数百億円から1000億円以上かかるが、ジェネリック医薬品は先発薬のコピー商品なので、1億円程度の開発費用で済むとされる。さらに、特許が切れて開発が容易なため、大手の先発薬製薬メーカー以外の、名前も聞いたことがないような中小企業が多数参入し、価格競争による値下げ圧力がかかる(多数の類似薬がゾロゾロ出てくるので、ゾロ薬などとも呼ばれる)。

 また、製造費用を抑えるために、人件費や固定費の安いインドや中国の医薬品工場で製造された薬の成分を輸入して日本の工場で製剤化する。あるいは現地で生産された製剤をそのまま輸入し、国内で包装処理だけして販売されることも珍しくない。米国など他の欧米諸国でも同様な状況にある。

 もちろん、後発品も立派な医薬品として政府による規制や基準が設けられており、新薬と同レベルの有効性や安全性、品質が担保できるだろうと確認された上で販売される。それを担当する規制当局が世界各国で運営されており、日本では厚労省や同省所管の独立行政法人「医薬品医療機器総合機構」(PMDA)、海外でも同様に「米国食品医薬品局」(US FDA)や「欧州医薬品庁」(EMA)などが設置されている。

 筆者は内科医として働いており、あえて高額な先発薬にしたいという患者さんからの希望がなければ、ジェネリック医薬品を日常的に処方している。また実際問題として国の政策もあり、処方箋ではジェネリック医薬品が原則選ばれるような設定になっている。先発薬を使う必要性があると医師が積極的に判断し注意書きを加えなければ、そのまま後発薬の処方になる仕組みなのだ。

 ところが最近、そのジェネリック医薬品の品質が心配になる話を聞くきっかけがあった。

世界的著名ジャーナリストが結集

 それは、2019年9月に開催された「第11回世界探査ジャーナリズム会議」(GIJC)に参加した時のことだ。

 GIJCは4日間にわたって世界130カ国から約1700人のジャーナリストが参加する国際会議で、2001年から2年ごとに開催されている。最新のテーマや取材方法、データ分析手法のノウハウを紹介し、国際的なネットワークを構築することが主眼の集まりだ。

 今回はドイツ・ハンブルク市で開かれ、欧州最大の再開発地区とされるエルベ川沿いの港湾に建設されたハーフェンシティ大学やドイツ老舗週刊誌『デア・シュピーゲル』の社屋が会場となった。

 内科医の筆者がGIJCに参加したのは、探査ジャーナリズムNGO「ワセダクロニクル」(以下、ワセクロ)と筆者もメンバーのNPO法人「医療ガバナンス研究所」で、製薬会社と医師の利益相反関係について調査した共同プロジェクトの経験を発表するためだ(2019年6月3日『知ってほしい「医者と製薬マネー」の底深い闇』参照)。

 ワセクロ編集長の渡辺周氏、編集幹事の木村英昭氏に推薦いただき、記者の斎藤林昌氏とともに「製薬産業の内幕」というセッション・プログラムで講演を行った。

左より筆者、齋藤氏、司会のネルソン氏

 セッション「製薬産業の内幕」の司会は、ピューリッツァー賞受賞ジャーナリストで米メリーランド大学のデボラ・ネルソン准教授が務めた。また、米国からジェネリック医薬品業界の問題点に関する著作もある著名ジャーナリストのキャサリン・エバン氏、イギリスから数々の医療ジャーナリズム関連の賞を受賞しているマドレヌ・デイヴィス氏も筆者らとともに講演し、製薬産業の問題点を提起した。世界中から150人以上のジャーナリストが参加し、通路に立ち見が出るほど盛況なセッションとなり、活発な議論も行われ、医療に関する関心の高さが伺えた。

ずさんな生産管理体制

 セッションの中で興味深かったのが、エバン氏によるジェネリック医薬品の品質問題に関する発表だ。

 彼女は、インドや中国の後発医薬品工場の現地取材に加え、「US FDA」の内部文書を入手、規制当局や製薬企業の担当者ら関係者を多数インタビューするなど長期取材を敢行し、その成果を『虚偽の薬瓶:ジェネリック医薬品ブームの舞台ウラ(Bottle of Lies: The Inside Story of the Generic Drug Boom、HarperCollins)』(2019年5月刊、未邦訳)として出版した。

 同書は『ニューヨーク・タイムズ』のベストセラー・リスト入りするほど話題となり、米国「アマゾン」でも168のレビュー平均で5点中4.6点(2019年11月15日時点)が付けられ、当のインドや中国でも出版されるという。

 前述のように米国では処方薬の9割がジェネリック医薬品で占められているが、その多くがインドや中国の工場で製造される安価な輸入品に依存している。エバン氏はインドのジェネリック医薬品メーカー大手「ランバクシー・ラボラトリーズ」などの取材を綿密に行い、同社を2008年に日本の「第一三共」が買収したものの、2014年にあえなく売却に至った内幕を詳細に解き明かした。

 第一三共がわずか6年で売却せざるを得なかったのは、ランバクシー社のずさんな生産管理体制が発覚したためだ。開発に成功すれば利益率が非常に高い新薬と違い、ジェネリック医薬品は利幅が小さい。そのため、製薬会社としても極力製造コストを下げるという強いインセンティヴが働く。その結果、生産技術向上や品質管理厳格化のための設備投資などがおろそかにされやすい。実際にエバン氏の取材でも、製剤への不純物混入やいいかげんな無菌管理、老朽化した設備など、製造工程の品質管理に大きな問題があることが明らかにされた。

 このような医薬品生産工場の現場をチェックするために、「US FDA」は査察官を海外派遣して、インドや中国の現地での立ち入り調査まで行っている。しかし、米国内で行われるような抜き打ち調査ではなく、査察期間の事前通告が行われ、また調査期間も限られている。このため、予定を聞いた工場側が事前に準備して、不具合の部分を隠して整った設備だけしか見せなかったり、不都合なデータを改ざん・偽装したりすることも日常茶飯事だという。

 それだけでなく、査察官にレポートを甘く付けてもらうため、懐柔策としてゴルフや買い物、有名観光地に豪華タクシーで案内、高級ホテルを用意、などなど接待漬けにしている実態も暴露された。医薬品の安全性や品質確保のための海外査察を口実にした観光ツアーに堕していたのだ。「US FDA」による査察を抜き打ちで行う試みも一時的に行われたが、各方面から圧力を受けうやむやとなり、近年ではジェネリック医薬品の製造販売数が年間1000品目以上に増えているのに海外査察件数が低下していることも報告されている。

 ランバクシー社などの品質問題が取り沙汰されたのは5年以上前の話だから、今は対策が取られて改善したのでは、と考える向きもあるだろう。しかし、冒頭にご紹介したとおり、ジェネリック医薬品での発がん性物質混入による回収騒ぎが2018年から2019年にかけても相次いでおり、露見するのは氷山の一角に過ぎないとも考えられる。

 エバン氏らが2019年10月末に発表したレポートでは、直近の過去数年で「US FDA」により行われた工場の査察において、何らかの違反が同定されるのは米国国内では15%程度だが、インドや中国の工場では少なくともその倍の約3割にも及び、依然として品質管理に疑問の残る状態が続いているという。

 また、『ブルームバーグ』の記者もこの問題を追及しており、冒頭の高血圧治療薬「バルサルタン」での発がん性物質混入には、中国上海近郊のジェネリック医薬品メーカーが関与していたことが明らかにされている。製造コストの抑制のために工程で用いる溶媒に加えられた変更が原因となっており、品質管理もずさん、規制当局の査察も適当なまま承認販売され、世界中で汚染された製剤が何年も流通し、事後に問題が発覚した、という図式なのだ。

国境を超えた問題

 むろん、日本にとっても、インドや中国から輸入する後発医薬品の品質疑義問題は他人事ではない。規制要件にさえ従っていれば、海外で製剤化された医薬品が数多く輸入され、実際に処方されている現状にある。

 日本のジェネリック医薬品メーカーの約9割は海外に製造工場を持っており、半数以上がインドや中国という報告もある。海外から輸入した製剤のパッケージを開けると頻繁にゴミが混じっていたので日本メーカーがクレームを言ったところ、当該の海外メーカーからは薬とゴミを一緒に飲まないよう気をつければ大丈夫と回答されたという、笑うに笑えないアネクドート(逸話)も現実に起こっている。

 医薬品の品質管理について、ではどのような対策が考えられるだろうか。ジェネリック医薬品に限らず新薬でも同様だが、製造工程から供給体制まで国際化がますます進んでおり、一国だけでは解決できない国境を超えた問題になっている。

 たとえばワクチンに関しては、日本では特に高品質が求められるため、原則国内メーカーの製品が優先され、また、国家検定で品質管理されたものが出荷される体制が取られている。しかし、このような政策では製造コストが上昇し、また国内産業の過剰な保護で国際的な競争力が失われる弊害が大きいという批判もあり、一般の医薬品で同じことを行うことは不可能だろう。

 日本の国民皆保険制度の維持が不安視される中で、不当に高額な新薬よりも安価なジェネリック医薬品使用を奨励するのは十分理解できる。しかし、安いからといって品質の担保がなくては、安易にジェネリック医薬品を礼賛することもできない。

 ジェネリック医薬品の品質管理の問題に着目し、価格をとるのか品質をとるのか、バランスの良い落としどころを探るすべを模索しなければならない。

「GIGC2019」の模様はこちらから(「UPLAN」三輪祐児氏提供)

マネーデータベース「製薬会社と医師」

カテゴリ: 政治 医療
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執筆者プロフィール
谷本哲也 1972年、石川県生まれ、鳥取県育ち。鳥取県立米子東高等学校卒。1997年、九州大学医学部卒。内科医。ナビタスクリニック、ときわ会常磐病院、社会福祉法人尚徳福祉会、霞クリニック、株式会社エムネス、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所。年間延べ1万人以上の診療に携わる他、「the New England Journal of Medicine(NEJM)」、「the Lancet」 とその関連誌、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」 とその関連誌などでの発表に取り組んでいる。著書に『生涯論文! 忙しい臨床医でもできる英語論文アクセプトまでの道のり』(金芳堂、2019年4月)、『知ってはいけない薬のカラクリ』(小学館、2019年4月)がある。
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