饗宴外交の舞台裏 (133)

英女王が訪問できない3つの国とその理由

執筆者:西川恵 2009年2月号
エリア: ヨーロッパ

 天皇、皇后両陛下は今夏、カナダを国賓として初訪問される。皇太子時代の一九五三年、英女王の戴冠式に列席される機会に立ち寄られたことはあるが、国賓訪問は初めてだ。 親日的なカナダのような大国になぜ天皇、皇后両陛下がこれまで訪れなかったかというと、英連邦のうちカナダ、豪州など十六カ国はエリザベス英女王を国家元首としている。英国を国賓訪問することは、すなわちこれら十六カ国を訪れることになるとの理屈だった。その意味ではカナダ訪問はこれまでの慣例を破る新しい一歩である。 知り合いの外交官が「豪州はこの訪問をどう見ているでしょうね」と語ったように、豪州ではなくカナダが先になったのは興味深い。カナダと豪州は似たような国柄で、競争心も強い。日本に深い意図はなかったかも知れないが、穿った見方をすれば、豪州とは大戦中の戦争捕虜問題や捕鯨問題を抱え、いまは時期ではないとの判断があったとも考えられる。

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執筆者プロフィール
西川恵(にしかわめぐみ) 毎日新聞客員編集委員。日本交通文化協会常任理事。1947年長崎県生れ。テヘラン、パリ、ローマの各支局長、外信部長、専門編集委員を経て、2014年から客員編集委員。2009年、フランス国家功労勲章シュヴァリエ受章。著書に『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』(新潮新書)、『エリゼ宮の食卓』(新潮社、サントリー学芸賞)、『ワインと外交』(新潮新書)、『饗宴外交 ワインと料理で世界はまわる』(世界文化社)、『知られざる皇室外交』(角川書店)、『国際政治のゼロ年代』(毎日新聞社)、訳書に『超大国アメリカの文化力』(岩波書店、共訳)などがある。
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