アフリカを変えた「中国マネー」と「蛙跳び型」発展

執筆者:白戸圭一 2020年9月11日
カテゴリ: 政治 社会
エリア: アフリカ
 

 

 月刊の国際政治経済情報誌として1990年3月に誕生した『フォーサイト』は2010年9月にWEB版として生まれ変わり、この9月で10周年を迎えました。

 これを記念し、月刊誌の時代から『フォーサイト』にて各国・地域・テーマの最先端の動きを分析し続けてきた常連筆者10名の方々に、この10年の情勢の変化を簡潔にまとめていただきました。題して「フォーサイトで辿る変遷10年」。平日正午に順次アップロードしていきます(筆者名で50音順)。

 第5回目は【アフリカ】白戸圭一さんです。

 

 フォーサイトWEB版が始まった2010年、サハラ以南アフリカのGDP成長率は、国際通貨基金(IMF)統計で7%を超えた。前年にはリーマンショックの影響で3%台に落ち込んでいたものの、わずか1年で劇的な回復を見せ、世界は「Rising Africa」に瞠目した。

 石油価格はなおも1バレル100ドルを超えており、鉱物資源価格も軒並み高止まり状態にあった。ナイジェリア、アンゴラ、コンゴ共和国といった産油国はもちろん、銅や鉄鉱石やレアメタルを生産する国々に資源マネーが流れ込み、非資源国でも個人消費が増加し、アフリカ各国は1960年代の独立以降初めてとも言える高度成長に沸いていた。

 その高度成長にブレーキがかかったのは2015年頃である。

 資源価格が軒並み下落し、石油価格は1バレル20ドルを切り、資源マネーの流入が急減したことによって、2016年のサハラ以南アフリカの成長率は1.4%にまで下落した。「資源依存からの脱却」「産業の多角化」がアフリカ諸国政府の合言葉となり、製造業振興を目指す国が増え、そのために必要なインフラ建設の重要性が叫ばれた。

 この状況変化にいち早く反応し、アフリカ開発の主役の座に躍り出たのが中国である。

 1990年代後半からスーダンやアンゴラなど一部のアフリカの国への関与を強めてきた中国の当初の目的は、自国の成長に伴って増大する資源需要を賄うことにあったと思われる。しかし、中国の対アフリカ関与は、2010年代の半ばから産業振興とインフラ建設の支援へと性格を変えた。

 中国マネーを巧みに活用したエチオピアは、縫製など軽工業の振興に成功し、ケニアでは中国の資金と技術で鉄道が、タンザニアでは巨大な港が完成した。

 アフリカ諸国と中国の政治面での関係も深化し、国際的な世論調査結果を見ると、今やアフリカは世界で最も親中派世論の強い地域との結果が出ている。

 アフリカの過去10年を顧みた時、中国との関係強化と並ぶもう1つの大きな変化は、「リープ・フロッグ(leapfrog=蛙跳び)型」発展の出現である。

 例えばアフリカは世界で最も固定電話が普及していない地域だった故に、先進国における電話産業の発展の歩みを一気に飛び越えて、全大陸的に爆発的に携帯電話が普及した。2018年に携帯電話普及率が100%を超えたケニアでは、携帯電話網を活用したモバイルマネー関連ビジネスが急速に普及している。

 アフリカ諸国が今なお貧困や武力紛争など解決すべき深刻な問題に直面していることは事実だが、「貧しく、遅れている」という十年一日の如き「上から目線」でアフリカを眺めていると、置いてきぼりをくらうのは日本の方かもしれない。

 この10年のアフリカ社会の変化は、部分的には日本社会の過去100年の変化に匹敵するほど大きいのである。

 

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執筆者プロフィール
白戸圭一(しらとけいいち) 立命館大学国際関係学部教授。1970年生れ。立命館大学大学院国際関係研究科修士課程修了。毎日新聞社の外信部、政治部、ヨハネスブルク支局、北米総局(ワシントン)などで勤務した後、三井物産戦略研究所を経て2018年4月より現職。著書に『ルポ 資源大陸アフリカ』(東洋経済新報社、日本ジャーナリスト会議賞受賞)、『日本人のためのアフリカ入門』(ちくま新書)、『ボコ・ハラム イスラーム国を超えた「史上最悪」のテロ組織』(新潮社)など。京都大学アフリカ地域研究資料センター特任教授、三井物産戦略研究所客員研究員を兼任。
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