フォーサイト「2021年の注目点、気になること」【テーマ編】

 

 フォーサイト編集部です。新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。

 本年も昨年同様、新年を迎えるに当たり、執筆者の方々に「2021年の注目点、気になること」をお聞きし、それぞれ【地域編】と【テーマ編】にまとめてみました。こちらは【テーマ編】です。どうぞお楽しみください(執筆者は50音順になっています。タイトルをクリックすると、それぞれの執筆者の記事一覧ページにジャンプします)。

 

【日本経済:磯山友幸】コロナで過去との「断絶」を成す年に

 新型コロナウイルスの蔓延はいつか必ず忽然と終息する。企業や行政の過去の仕組みを生き残らせる事を優先した政策を取り続けるならば、コロナ後の世界との競争の中で日本は「負け組」に転落するに違いない。コロナ後の世界で、企業が成長し、日本経済が力強く復活するには、2021年にどんな手を打つかが決定的に重要になる。

 デジタル庁新設を、霞が関の仕組みを一から刷新する契機とし、行政を一気に効率化する必要がある。企業もこれまでのビジネスモデルを見直す事が重要だ。政府はそのための規制のあり方をゼロから考え直すべきだろう。新型コロナという禍を転じて過去との「断絶」を成す年とすべきである。

 

【外国人労働者:出井康博】外国人に「借金と嘘」を強いる恥ずべき国策

 近年の外国人労働者急増は、アジア新興国から出稼ぎ目的の「実習生」と「留学生」が大量に受け入れられて起きた。両者の境遇には共通点がある。多くが「借金」と「嘘」を強いられ来日していることだ。

 借金は仲介業者への手数料、留学生であれば日本語学校への授業料などで発生する。そして実習生は「経歴」、留学生は「経済力」に関し、嘘をついてビザを取得する。そうしなければ、日本での出稼ぎが認められないからだ。

 コロナ禍で問題となっている外国人の困窮、また犯罪にしろ、彼らに「借金」と「嘘」を強いて受け入れ、低賃金で底辺労働に利用してきた結末だ。

こんな恥ずべき国策を続けていれば、さらに多くの問題が噴出する。制度を正常化するなら、人手不足が緩和した今しかない。

 

【エネルギー:岩瀬昇】サウジ・イラン「巨星墜つ」後の石油市場

 まず「不謹慎」なることをお詫びする。だが、2021年の石油市場の動向を考えると、どうしても気になるのだ。

 筆者の父は、80歳で黄泉の国に旅立った。母が97歳まで生きたので、筆者は88歳くらいまで生きられるだろうと楽観している。子孫に残せるものは「楽しかった思い出」しかないから、気は楽だ。

 だが、権力の頂点にいるサウジアラビアのサルマーン国王(85)とイランのハメネイ最高指導者(81)は、そうはいかないだろう。

 残る一族が、国民が、どのような境遇になるのか、心配しないわけがない。

 第三者である筆者が懸念するのは、巨星墜ちたあとの両国だ。それが、石油市場にどのような影響を与えるのか?

 いつか、必ず来る「Xデー」。

 コロナ禍つづく今年でなければ、いいのだが。

 

【医療:上昌広】世界に学ばない日本の「医療崩壊」

 新型コロナウイルス対策は、日本の医療の地盤沈下を浮き彫りにした。政府は「日本型モデル」の成功と自画自賛したが、東アジアで人口当たりの感染者数、死者数は最大で、GDP(国内総生産)の落ち込みはもっとも酷い。欧米と比べると上手く対応したという声もあるが、人口あたりでアメリカと比べて40分の1以下、欧州主要国で最も感染者数が少ないドイツと比べても10分の1以下の感染者しかいないのに、「重症ベッドは切迫」など医療崩壊が叫ばれる。何か根本的なところが間違っている。

 コロナの特徴は無症状感染者が多く、彼らが周囲にうつすことだ。12月2日にスリランカの研究者が、PCR検査体制の強化がもっとも有効なコロナ対策という論文を『ヘルス・アフェアーズ』誌で発表し、話題となったが、政府は検査抑制方針を見直すつもりはない。

 世界から学ばず、独自の道を行けば、そこには破綻しかない。2021年の日本がそうならないことを願う。

 

【ロシア軍事:小泉悠】「新START」後継問題と旧ソ連圏での指導力

 2021年2月に米露の核軍備管理条約「新戦略兵器削減条約(新START)」の期限切れが迫る中、その後継問題について合意が成立するのか、このまま核軍備管理が無条約状態に突入するのかが気になるところだ。

 また、旧ソ連ではベラルーシでの反政府抗議運動やナゴルノ・カラバフ紛争など動乱が続いており、ロシアの指導力がどこまで揺らぐのか、中国やトルコの影響力がどこまで広がるのかも注目点である。ロシアの経済は制裁とコロナ危機のダブル・パンチを受けており、ここから抜け出せなければ中露関係はますます中国有利となるばかりか、旧ソ連全体での中国の影響力は強まろう。

 日露交渉については当面、停滞が予想されるが、菅義偉政権の出方にも注目したい。

 

【平和構築:篠田英朗】終わらない対テロ戦争は悪化していくのか

 退陣するドナルド・トランプ米大統領は、駐アフガニスタン・イラクの米軍を半減させ、ソマリアからも米兵を撤収させる。すでに小規模になっていたとはいえ、米軍はテロ組織掃討作戦には重大な意味を持つ航空兵力を提供していた。

 地域大国の軍事介入行動が顕著になっている一方、新型コロナの蔓延で、脆弱国家がいっそう脆弱になっている。ISIS(「イスラム国」)やアルカイダなどの中東起源のテロ組織ネットワークが、アフガニスタンなどの南アジアから、中東諸国をへて、アフリカの角からサヘルの帯を貫いてアフリカ諸国を不安定化させている。モザンビークなどにも深刻な影響が及ぶ。

 欧米諸国が疲弊しきっており、見通しがきかない情勢のまま、対テロ戦争は終わりが見えない。

 

【国際機関:鈴木一人】イラン核合意への復帰とイラン大統領選挙

 2021年の注目点はもちろんバイデン新政権の発足なのだが、中でも公約に掲げるイラン核合意への復帰が実現するのかどうかが重要となる。復帰すればイランの経済社会は安定し、2021年6月に行われる大統領選で穏健派が有利になるだろう。

 しかし、復帰すればイランを脅威と見ているイスラエルなどが反発し、また米国内でも核合意への復帰に反対する勢力は多く、新型コロナ対策などで超党派の協力を必要とするバイデン政権が核合意のために政治的資源をつぎ込むことも難しい。

 もし復帰しなければイラン大統領選で保守強硬派が勝つ可能性は高く、中東情勢は不安定となる。政権発足から実質的に2~3カ月しかない短い期間でどのような判断を下すのだろうか。

 

【古代史:関裕二】二極化し対立する世界の行方

 日本がまだ高度成長の真っ只中にあった時代に、梅棹忠夫はユーラシア大陸の辺境に位置する日本とイギリスが近代に至って成長したことを、歴史的にみて必然だったと論じた(『文明の生態史観』中公文庫)。中国などの農耕地域は隣接する乾燥地帯の遊牧民に侵略され、文明は破壊と再生をくり返したのに対し、外側の地域はゆっくりと成長を続けたと指摘した。

 この考えを素直に受け入れるなら、いま起きていることは「ユーラシア大陸の復活(一帯一路)」であり、二極化し対立する世界の構図は、「ユーラシア大陸vs.辺境(海洋国家)」ということになりそうだ。

 しかも、それは「森を失った地域vs.かろうじて森を守ってきた地域」の構図でもある。

 

【市場経済:高井浩章】ESGブームと反動

 金融・投資の世界にパラダイムシフトを起こしているESG。「環境」「社会」「(国・企業の)統治の質」という価値観を市場経済にビルトインし、持続可能な成長を模索する理念には賛同するが、マネーの流れの変化が拙速な感は否めない。

 産油国や「反ESG的」と位置付けられた企業を切り捨てるかのような枠組みの変化はどこかで歪みを生む。「環境」に資する電気自動車(EV)やメガソーラーのような分野では、「統治」の面で疑義がつく中国の存在が無視できないという矛盾もはらむ。

 理想と美辞麗句で前のめり気味のブームに反動が出るのか。逆風を乗り越えて、本物のムーブメントになるのか、注目したい。

 

【震災:寺島英弥】「東日本大震災・福島原発事故」から10年の被災地

 今年3月11日は、東日本大震災、東京電力福島第1原子力発電所事故から丸10年の節目になる。

 取材で訪ねる陸前高田市には、東京ドーム9個分という土砂で造成した新市街地に商店街が生まれたが、建った民家はごくわずか。広大な空地に売地、貸地の看板が並ぶ。

 昨年、JR常磐線の全面再開が朗報だった福島県浜通り。10年前まで1万6000人が暮らした富岡町には、帰還者が1600人足らず。約65%の町民が避難先から「戻らない」「戻れない」と答え(復興庁調査)、交流人口を増やそうとする町づくりはコロナ禍で足踏みする。

 加えて、福島や隣県の漁業に巨大な風評を再燃させかねない、第1原発の汚染水処理水の海洋放出問題は未解決のまま。

 復興とは何かが再び問われる。

 

【安全保障:林吉永】「日本の安全保障政策転換」の行方

 安倍晋三前首相は、「集団的自衛権行使容認」「安全保障法制制定」「南スーダン派遣部隊への『駆け付け警護・宿営地の共同防護任務』付与」など「積極防衛政策」を進め、更に2020年8月、自民党ミサイル防衛検討チームの「敵基地攻撃能力保有」の提言を受け新たな方向性を9月中に示すとし、「戦争との距離」を縮める「専守防衛」の“サラミスライス”を顕わにした。

 しかし安倍前首相が辞任。菅義偉新首相は「日米同盟の堅持・インド太平洋構想の具現・防衛力整備の継続」を柱に政策継承を表明したが、対脅威具体策に触れていない。よって、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)、米大統領交代、中国海警の武器使用新法など、悩ましく厳しい安保環境が予見される2021年は、日本に有為の防衛・安保政策具現が喫緊の課題だ。

 

【インテリジェンス:春名幹男】実現するか「シックス・アイズ」構想

 米・英・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドの5カ国で構成される機密情報交換協定「ファイブ・アイズ」。それに日本を加えてシックス・アイズにしよう、という動きが活発化している。2020年7月、英議会外交委員会のトム・トゥーゲンハット委員長が河野太郎防衛相(当時)との電話会談で提案したのが最初。同12月に公表された「アーミテージ・ナイ報告書」にも盛り込まれた。

 5カ国協定は当初、信号情報(SIGINT)だけの共有だったが、今では人的情報(HUMINT)にまで拡大している。米英は中国インテリジェンスの入手に躍起となっているが、中国は警戒態勢を強化しており、無防備な日本が安易に協力すれば、犠牲者が出る恐れがある。カウンターインテリジェンスの態勢が未整備の日本、慎重にことを運ぶべきだ。

 

【企業経営:杜耕次】インフラ産業の「グレートリセット」

 現在の業界構造が構築されてから、電力は70年、JRは30年あまりが経過。経年劣化で間尺が合わなくなった2つのインフラ産業の解体・再編が始まる。

 東京電力福島第1原子力発電所事故から進められた「電力改革」は10年もの時間を浪費し、現行の大手電力10社体制に手をつけなかった。ガバナンスの腐敗は、高浜原発(福井県)地元関係者から長年にわたり金品を受領していた関西電力の事例で明らかであり、加速する「脱火力発電」や原発停止の「訴訟リスク」の高まりを背景に、まず西日本の大手電力の統合の動きが顕在化しそうだ。

 一方、コロナ禍で壊滅的な打撃を受けているJR各社は、現行の6社体制(JR貨物を除く)の維持が困難に。すでに経営危機状態の北海道は実質的に東日本の傘下にあるが、今後は西日本による四国の救済や、リニア計画見直しが課題の東海を含む「JR再編論」が浮上する可能性がある。

 

【サイバー:山田敏弘】「ディープフェイク」で強まる分断

 2020年、コロナ禍もあってあまり進まなかった5G(第5世代移動通信システム)とIoT(モノのインターネット)の展開だが、2021年にはさらに利用が増え、その分さまざまなサイバー攻撃の問題が出る可能性がある。2020年に中国がモンゴルを徹底攻撃したような、政府間のやり合いも増える可能性がある。

 専門家らが気にしているのは、ここ近年猛威を奮っている「ランサムウェア(身代金要求型ウィルス)」で、コロナ後に再開する病院や学校が狙われるだろう。

 また個人的に注目しているのは「ディープフェイク(偽動画)」だ。SNSの多様化や主要メディアの影響力低下によってサイバー空間で陰謀論やフェイクニュースが拡散され、実世界の分断を強める可能性があり、サイバー空間と実世界の壁が希薄になっていくのを感じるようになるかもしれない。

 

【世界経済:鷲尾香一】経済は「ワクチン・米中・対日通商」に要注意

 2021年の経済を見通すポイントは、新型コロナウイルスのワクチンとジョー・バイデン米国新大統領の政策の2つが最重要だろう。

 実用化されたワクチンの世界各国への普及スピードとその効果で、世界経済の回復ペースが左右されることになる。

 一方、バイデン新大統領の経済政策・通商政策については未だに判然としていない。特に、対中、対日政策には注目だ。

 トランプ政権下で悪化した対中関係がどの程度改善されるのかが、世界経済に大きく影響する。

 さらに、共和党に比べ、伝統的に対日通商政策は強硬姿勢と言われる民主党のバイデン政権がどのような対日通商政策を打ち出してくるのか、要注意だ。

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