福田赳夫の軌跡が問う「言葉の政治」の価値と「保守とは何か」

五百旗頭真監修『評伝 福田赳夫』(岩波書店)を読む

執筆者:河野有理 2021年9月13日
エリア: アジア
福田赳夫(1905~1995)©時事
「一致団結、箱弁当」ほど福田が嫌悪したものはないという。大派閥の長でありながら派閥解消を唱えた戦後史有数の政策家は、「言葉の政治」の実践者として、55年体制に長く大きな影響力を持ち続けた。その目指した政治の姿は、吉田茂の後継者たちとは一線を画す保守観とも相俟って、今日の日本政治にも大きな問いを投げかけている。

人に対するに「流線形」

 ある種のフィクサーとして戦後政治の裏面を知り尽くした福本邦雄は、その回顧録『表舞台 裏舞台』で、福田赳夫の印象を「流線形」と評している。回想の場面は宴会、椎名悦三郎との比較である。改まった場での演説は苦手だった椎名だが、私的な宴席に「ドカッと」腰を据えて語るその座談には独特の魅力があった。それはやせぎすの身体をおして座敷から座敷へと高速でハシゴする福田の「流線形」の姿と対照的であった、というのである。

 岸信介内閣当時、官房長官を務めた椎名の秘書官だった福本の筆がおのずと椎名に甘くなっていることは否めない。だがそれを差し引いてもこの「流線形」という評語は福田という政治家の本質についてやはり何ごとかを語っているのではないか。『評伝 福田赳夫』(岩波書店)を読了して、改めてそう思った。

カテゴリ: 政治 カルチャー
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執筆者プロフィール
河野有理 1979年生まれ。東京大学法学部卒業、同大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。日本政治思想史専攻。首都大学東京法学部(当時)教授を経て、現在、法政大学法学部教授。主な著書に『明六雑誌の政治思想』(東京大学出版会、2011年)、『田口卯吉の夢』(慶應義塾大学出版会、2013年)、『近代日本政治思想史』(編、ナカニシヤ出版、2014年)、『偽史の政治学』(白水社、2016年)、『日本の夜の公共圏:スナック研究序説』(共著、白水社、2017年)がある。
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